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新憲法の解説
しんけんぽうのかいせつ |
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作品ID | 59135 |
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副題 | 04 解説 04 かいせつ |
著者 | 山浦 貫一 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「新憲法の解説」 内閣 1946(昭和21)年11月3日 |
初出 | 「新憲法の解説」内閣、1946(昭和21)年11月3日 |
入力者 | フクポー |
校正者 | The Creative CAT |
公開 / 更新 | 2020-05-03 / 2021-05-12 |
長さの目安 | 約 69 ページ(500字/頁で計算) |
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序
新日本建設の基礎となる新憲法は、國民の眞摯なる※[#「執/れんが」、U+24360、1-2]意と自由なる意思により、第九十議會を通じて成立した。
新日本の世界に於ける平和的使命と文化國家としての出發は茲に始まり、全世界は大なる關心を以て之を見守るであらう。之がためにはまづ國民大衆のすべての人が、この新憲法を讀むことである。理解することである。國民的教典として親しむことである。
今囘たまたま新聞人山浦貫一君の筆を通じて新憲法解説の書が作成上梓されることになつた。その内容と形體においてわれわれの要請を充分に滿たしてくれるものと信ずる。
民主主義憲法は國民の總意によつて作られたと同時に國民の總意によつて解釋せらるべきであることは言ふを俟たない。この書の出版がこの國民的期待の方向をめざしてまづ力強き第一歩を踏み出す意味において喜びと期待とを新にする次第である。
昭和二十一年十一月
吉田茂
[#改ページ]
序
私は世にも珍らしい幸運者であつた。今囘の改正憲法の議會審議に當り、百餘日に亘つて、兩院の有力なる議員諸君と共に、論議を交換し、或る時は氷よりも冷かなる態度を以て法理の徹底を計り、或る時は熔鐵よりも※[#「執/れんが」、U+24360、2-4]き心意氣に乘つて運營の將來を痛論した。
斯くして日々の檢討に依り改正案の有する各面を内外表裏より事細かに考へた。そしてこれこそは日本國が遲かれ早かれ踏み行かねばならぬ大道を端的に明示するものであり、これに依つて進むことのみが日本國民に負はされた必然の運命であるとの確信を、いやが上に深めた。此の樣な立場に置かれた一身を顧みるとき、此の憲法改正に關連して前述の如く多數の識者に依り斯くも廣く斯くも強く心を開發せられたことは、世にも稀な幸運に惠まれた者と言ふの外に何の言葉があらうぞ。以上は現下の私の心境であるが、これにつけても、國民諸君が速に此の憲法の本體に親しみ、之と融合し、言はば之と一體と爲り、歴史の導く新なる段階に、全身を歡喜に震はせて、突入せられんことを希望して止まない。
所で私が思ふのは、此の改正憲法に親しむには如何にしたらばよいかの點である。一見すれば憲法は文字を以て書き現はされてゐるが、本質は國民の結晶した精神の表現である。從つて國民が精醇化された精神を以て之に對面するとき、卒讀卒解であるべき筈である。
私は斯く考へる。勿論個々の法律的解釋は、其の樣にはゆきかねるが、基本原理に付ては上述の如くであるべきこと疑ない。唯之が爲には若干の精神的な準備を要する。それは僅でよい。それさへあれば各人の清純な常識が萬事を解決する。
斯くて民主的精神に基く憲法は民主的解釋に徹底するを得て、其の歸趨を誤ること無い筈である。換言すれば改正憲法は何一つむづかしい原理を有してゐるものではない。人間を尊重し、平和と正…