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南嶋を思いて
なんとうをおもいて
作品ID59164
副題――伊波文学士の『古琉球』に及ぶ――
――いはぶんがくしの『こりゅうきゅう』におよぶ――
著者新村 出
文字遣い新字新仮名
底本 「古琉球」 岩波文庫、岩波書店
2000(平成12)年12月15日
初出「芸文 第三年第七号」鶏聲堂書店、1912(明治45)年7月
入力者砂場清隆
校正者かたこ
公開 / 更新2020-10-04 / 2020-09-28
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

文学博士  新村 出

 今春琉球に関する一、二の古本を読んでから南島を思う情が切になり来った矢先に、伊波君の『古琉球』と題する南国の色彩豊かな著述がしかもその国の人の手に由って贈られたのは異常に嬉しかった。
 森島中良の『琉球談』中に見える年中行事(むしろ歳時記)を読んだのは未だ寒い頃であったかと思う。
□二月十二日、家々にて浚井し女子は井の水を汲んで額を洗ふ、如此すれば疾病を免るゝとなり、此月や土筆萌出、海棠・春菊・百合の花満開し蟋蟀鳴く。
□三月上巳の節句とて往来し、艾[#挿絵]を作て餉る、石竹・薔薇・罌粟倶に花咲く、紫蘇生じ、麦秋り虹始て見ゆ。
□四月させる事なし、鉄線開き笋出。蜩鳴き、蚯蚓出、螻※[#「虫+國」、U+87C8、8-1]鳴き、芭蕉実を結ぶ、国人是を甘露と名づく。
 この本の挿画にも見るように髪の頂に簪を長く突出して島の女子が南音ゆるく蛇皮線を弾いている側に、熟しきったバナナを食いながら、芭蕉葉の扇を使って懶気に聴惚れている若者を想像すると、〔荻生〕徂徠が『琉球聘使記』に挙げたいとやなぎの唱歌が聞える。
 こんな島へも昔、[#挿絵]から支那の冊使を載せて来る船が通ったのみならず、十八、九世紀の替り目からは西洋の探検船が渡って珍しい島物語を絶域に伝えることになった。琉球語を初めて学問的に研究して世に著わしたバジル・ホール・チャンバレン Basil Hall Chamberlain 氏の祖父に当る Captain Basil Hall の率いた英吉利船が帰航の途に聖ヘレナ島に立寄って船長の口から流竄中の那翁に沖縄島の話を伝えた事は近時邦人の間にも普く知られるようになったと思うが、同じ航海で那覇港に来た英船アルセスト Alceste 号に就いての話は聞えぬらしい。
 ライラ Lyra 号の艦長ホールの『航海記』(一八一七年、文化十四年倫敦版)には大尉クリッフォード Clifford の編纂した琉球語彙が附録されている如く、アルセスト号乗組の軍医マクレオッド Mac-Leod の『航海記』(同年同地版)にはフィッシャー Fisher と呼ぶ人の蒐集した琉球語彙が添うている。序に語彙の事をいえば、右諸船よりも二十年ばかり前にブロートン Captain Broughton の率いて我国の近海に来た英船の『北太平洋探検記』(一八〇四年、文化元年倫敦版)にも附録としてやはり琉球語彙が載っている。後に至って、探検時代から布教時代に進んでベッテルハイム Bettelheim やギュッツラフ G[#挿絵]tzlaff らの宣教師連の手を着けた琉球語学のことは姑く措き、以上三人の船乗共が集めた語彙は今日から見れば不完全で研究の資料にもならぬが、なかんずくブロートンのは僅々二十一語を録するに止まり、フィッシャーのは百八語を算するが、クリッフォードの分は一千の語辞…

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