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愛と月の犬
あいとつきのいぬ
作品ID59176
原題LOVE AND MOONDOGS
著者マッケナ リチャード・ミルトン
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2018-10-04 / 2019-11-22
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「真の犬は、マダム、大元を辿ると
 ゴールデン・ジャッカル、Canis aureus だったのです……
 彼は愛し愛されねばなりません。
 さもなければ死んでしまいます。」

「ロシア犬、生きたまま月に到着」ドラッグストアの店先に山積みになった新聞にヘッドラインが踊っていた。それに目を通そうと、レザージャケットの男が足を止めた。
 街路の反対側では裁判所の芝生が寒々と霜で覆われ、茶色の斑がある白犬が暖をとろうとでもするかのように、キッチンスツールの上に両の前脚を乗せていた。だが、旗を下ろすのに熱中している四人の婦人は気にも留めなかった。
 ハリヤードを買ったのはペルシャ子羊のコートを着たマーサ・ストーナリー。真っ赤なマスカラを塗ったモニカ・フリントとブラウン・フォックスを纏ったポーラ・ハートが旗をつかみ、濡れたセメントに触れないように気をつけながら折り畳んだ。郵便屋とレザージャケットの男が歩道に立ち止まって様子を眺めた。
 マーサは鼻眼鏡の下でぞっとする顔を膨らませ、ハリヤードのフックの一つに金属の輪を止めた。それにはテープとワイヤーで犬の右脚が結んであった。
「引き上げるわよ、みんな。」
 マーサが旗を押さえている間に、モニカ、ポーラ、そしてヌートリアの毛皮を着たアビゲイル・サイラックスは声を揃えた。犬は前脚をばたばたさせ狂ったように吠えた。なんとかしてよじり上ろうと身を悶えさせつつ、犬は鐘のような吠え声をあげ始めた。女たちは疲れてぶうぶう言っていた。芝生の先から人が集まり始め、裁判所の窓にいくつもの青ざめた顔が動くのが見えた。
 マーサは言った「二ブロックというもの、やめろやめろと大騒ぎね。」
 旗竿のそばに引き寄せたキッチンスツールに乗って、胸の高さまである棚ごしに、小さな群衆と向き合った。車がとまり、四方八方から人が集まってきた。盛り上がった灰色の髪の毛を手で軽く押さえ、薄い唇をオウムの嘴のように尖らせた。
「アメリカの仲間たち!」吠え声に負けずに彼女は叫んだ「我々の指導者は腰抜けです。我々全員がロシア人に寝首を掻かれる前に、我々人民が行動すべき時がやってきました! ここに我々、愛犬婦人連盟はロシアの犯罪行為に断固抗議するものです。即ち信ずべき、愛すべき犬を月へと追いやり、孤独のうちに飢えさせ、凍えさせ、窒息させ、死なせることに! 我々の頭上で絶叫するこの犬は、犬と人との間に結ばれた信義をロシア人たちが破ったことを世界に向けて告発しているのです。」
「とんでもない!」とレザージャケットの男が近づいてきた。
「マーサ」アビゲイルが叫んだ「そいつはあれを下ろすつもりよ!」
 モニカは男の腕をつかんだ。ポーラは顔をピシャリとやって引っ掻いた。「このケダモノ、腰抜け野郎!」と金切り声。
 マーサがスツールから飛び降りて男を蹴り飛ばした。男は腹を押さえながら退…

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