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いえ、いえ、ラゴーフにはもう!
いえ、いえ、ラゴーフにはもう!
作品ID59178
原題NO, NO, NOT ROGOV!
著者スミス コードウェイナー
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2018-08-06 / 2019-11-22
長さの目安約 34 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「ならず者どものトップ自身の脳の中身をスパイして
 ……この装置が奴のアタマの働きを停止させ机の前に座ったまま
 クルクルパーの状態にできるとしたら、素晴らしくはないかね?」

 かの金色の姿は金の階段の上で、あたかも狂える鳥の如く震え、舞い――あたかも知性と魂を吹き込まれた一羽の鳥のように、されど人智の及ばぬ興奮と恐怖に駆り立てられたかのように。一千の世界が見つめていた。
 古代の暦法が続いていたなら、これは紀元一三五八二年のことになる。敗北と、失望と、崩壊と、再建とを経て人類は星々に散った。
 人類のものならぬ芸術に出会ったショックから、人間のものならぬ舞踏に直面して、人類は見事に美学的努力を傾注しあらゆる世界の舞台へと飛び立った。
 金色の階は人目を惹いた。網膜を持つ目もあった。円錐状結晶体を持つ目もあった。しかし全ての目が「人の栄光と肯定」を解釈した金色の姿の上に注がれた。紀元一三五八二年に当たるはずの年に開かれた汎世界ダンス・フェスティバルの舞台である。
 再び人類はコンテストで優勝を勝ち得ようとしていた。音楽と舞踏はシステムの限界を超えて催眠的であり、人類の目も非人類の目も奪い、ショックを与えた。この舞踏はショックの勝利だった――ダイナミックな美が与えるショックの。
 金色の階の上の金色の姿が示しているのは、複雑に入り組んだ意味の瞬きだ。身体は金色でありながら人類のそれ。女性の身体でありながら女性以上の何かだった。金色の階の上で金色の光を浴びながら、彼女は震え舞った。まるで気が狂れた鳥のように。

 慎重というよりも果断なナチ諜報員の手がН・ラゴーフに後一歩の所まで迫ったのに気づいたとき、МГБ(国内治安省)は酷く衝撃を受けた。
 ソ連軍にとって、ラゴーフはいかなる二個航空群にも、またいかなる三個機甲師団にも代え難かった。彼の頭脳は武器だった。ソ連の力たる武器だったのだ。
 その頭脳が武器だったが故、ラゴーフは囚われの身だった。
 彼は気にしなかった。
 ラゴーフの容姿は純然たるロシア人のそれだった。大きな顔、黄土色の髪、青い目。奇矯に微笑み、面白がると頬の天辺に皴が寄った。
「もちろん私は囚人だよ。」ラゴーフは常々言っていた。「ソ連邦人民に対する国家的奉仕に囚われているのだ。だが労働者と地域住民は私によくしてくれる。私はソ連科学アカデミーの一員であり、我が国空軍の大将であり、ハリコフ大学の教授であり、赤旗軍用機製造トラストの補佐官でもある。これら全てから給料を得ている。」
 時として彼はロシア人同僚科学者に対して目を細め、生真面目にこう聞くのだ「資本主義者を助けることにしようかね?」
 同僚たちは飛び上がり、気まずく吃りながら例によってスターリンやベリヤやジューコフやモロトフやブルガーニンへの普遍かつ不変の忠誠を誓ったものだった。
 そんな時、…

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