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自然の恵み
しぜんのめぐみ
副題――少国民のための新しい雪の話――
――しょうこくみんのためのあたらしいゆきのはなし――
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆選集第二巻」 朝日新聞社
1966(昭和41)年8月20日
入力者砂場清隆
校正者岡村和彦
公開 / 更新2020-07-04 / 2020-07-02
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 われわれは大きい自然の中で生きている。この自然は、隅の隅まで、精巧をきわめた構造になっている。その構造には、何一つ無駄がなくて、またどんな細かいところまでも、実に美しく出来上がっている。
 寺田先生がかつて、どんなに精巧につくられた造花でも、虫眼鏡でのぞいてみると汚らしいが、どんなつまらぬ雑草の一部分でも、顕微鏡でみると、実に驚くほど美しいということを書いておられる。これは非常に意味の深い言葉であって、自然のいろいろな物質、それは生命のあるものまでも含めての話であるが、そのものの深い奥底にかくされた造化の秘密には、不思議さと同時に美しさがある。そしてその不思議さと美しさとにおどろく心は、単に科学の芽生えばかりではなく、また人間性の芽生えでもある。
 こういう自然のいわば科学的の美と神秘とを、最もよく示す代表的なものとして、しばしば雪の結晶が例にひかれる。そしてこの例は、いかにも適切な例である。それで雪の結晶のことを、こういう自然の、いわば精神的な意味での恵みという立場から、少し話してみよう。もっとも雪の話は、今までに何度も書いたことがあるので、雪の結晶そのものの説明、例えば水蒸気の昇華作用で出来た氷の結晶が即ち雪であるというような話は、今回は略すことにしよう。ただ数年前まではよくわかっていなかった結晶のかくのことだけは、一寸書いておく必要がある。

 その本体からいっても、またその出来方からいっても、雪に一番よく似ているものは、霜である。もっとも霜には二種類あって、一種類は結晶ではないが、他の一種類は立派な結晶になっている。この霜の結晶と、雪の結晶とは非常に似たものであって、そのちがいは出来る場所だけの差である。霜の方は、地上の物体、例えば草とか、石とかいうものの上に出来た結晶であり、雪は大気中で出来た結晶であるという、それだけのちがいである。大気というのは、地球上に実際にある空気という意味である。本体は、ともに氷の結晶であるが、霜の方は、地上の物体の上に出来るので、ふつう上の方へ半分しか発達しない。下の方は、その物体がじゃまになるのでのびられない。雪はそれとちがって、大気中に浮かんだ形で成長するので、何もじゃまになるものがなく、本来の形のとおりに完全に発達する。六花の美しい形が、氷の結晶の本来の姿なのである。
 ところで大気中で水蒸気が凍りついてといっても、大気中に、何か凍りつく芯になるものがなくては、水蒸気は凍りつけない。その芯のことを、かくといっているが、このかくが何であるかが、昔から問題になっていた。五、六年前までは、眼にはもちろんのこと顕微鏡でも見えないようなきわめて小さいごみが大気中にあって、そのごみが中心になって、雪の結晶が出来るのであろうと、学者の間でもぼんやりと考えていた。そういう顕微鏡でも見えないようなごみが、大気中にたくさんあることは…

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