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雪の女王
ゆきのじょおう |
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作品ID | 59261 |
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副題 | ――七つのお話からできている物語―― ――ななつのおはなしからできているものがたり―― |
著者 | アンデルセン ハンス・クリスチャン Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「マッチ売りの少女 (アンデルセン童話集Ⅲ)」 新潮文庫、新潮社 1967(昭和42)年12月10日 |
入力者 | チエコ |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2020-12-25 / 2020-11-27 |
長さの目安 | 約 80 ページ(500字/頁で計算) |
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さいしょのお話
鏡と、鏡のかけらのこと
さあ、いいですか、お話をはじめますよ。このお話をおしまいまで聞けば、わたしたちは、いまよりも、もっといろいろなことを知ることになります。それは、こういうわけなのですよ。
あるところに、ひとりのわるいこびとの妖魔がいました。それは妖魔の中でも、いちばんわるいほうのひとりでした。つまり、「悪魔」です。ある日のこと、悪魔は、たいそういいごきげんになっていました。というのは、この悪魔は、まことにふしぎな力をもつ、一枚の鏡をつくったからでした。つまり、その鏡に、よいものや、美しいものがうつると、たちまち、それが小さくなり、ほとんどなんにも見えなくなってしまうのです。ところが、その反対に、役に立たないものとか、みにくいものなどは、はっきりと大きくうつって、しかもそれが、いっそうひどくなるというわけです。たとえようもないほど美しい景色でも、この鏡にうつったがさいご、まるで、煮つめたホウレンソウみたいになってしまうのです。どんなによい人間でも、みにくく見えてしまいます。さもなければ、胴がなくなって、さかさまにうつってしまうのです。顔は、すっかりゆがめられてしまって、見わけることさえできません。そのかわり、そばかすが一つあっても、それが、鼻や口の上までひろがって、はっきりと見えてくるしまつです。
「こいつは、とてつもなくおもしろいや」と、悪魔は言いました。たとえばですよ、なにか信心深い、よい考えが、人の心の中に起ってきたとしますね、すると、鏡の中には、しかめっつらがあらわれてくるのです。こびとの悪魔は、自分のすばらしい発明に、思わず、吹き出してしまいました。悪魔は、妖魔学校の校長をしていましたが、この学校にかよっている生徒たちは、みんな、奇蹟が起った、と、言いふらしました。そして、いまこそはじめて、世の中と、人間のほんとうの姿が見られるのだ、と、口々に言いました。
こうして、みんなが、その鏡をさかんに持ち歩いたものですから、とうとうしまいには、その鏡に、ゆがんでうつらない国も、人間も、なくなってしまいました。そこで、今度は、天までのぼっていって、天使や、神さまをからかってやろうと、とんでもないことを考え出しました。みんなが、鏡を持って、高くのぼっていくと、鏡の中にうつるしかめっつらが、ますますひどくなってきました。そして、鏡をしっかり持っているのが、やっとになりました。みんなは、それでもかまわず、ずんずんのぼっていって、だんだん神さまと天使のところに近づきました。
が、そのとき、鏡は、しかめっつらをしながら、おそろしくふるえだしました。そのため、とうとう、みんなの手から離れて、地上に落っこちてしまいました。そして、何千万、何億万、いやいや、もっとたくさんの、こまかいかけらに、くだけてしまいました。こうして、いままでよりもも…