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寒林小唱
かんりんしょうしょう
作品ID59319
著者三好 達治
文字遣い旧字旧仮名
底本 「三好達治全集第一卷」 筑摩書房
1964(昭和39)年10月15日
入力者kompass
校正者杉浦鳥見
公開 / 更新2019-12-01 / 2019-11-24
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


山雀の嘴をたたきし板びさし
はたやくだりし黄なる枯芝

裸木の朴のこずゑはゆれてあれ
その青空をとぶ雲もなし

鴉なく櫟ばやしのあらきみち
けうとかりけり陽はてれれども

さねさし相模の山よ來る小鳥
たかき空よりまひくだりけり

はらはらと空よりくだる小鳥あり
やがてかしこにしばなきにけり

この庭は鶲のとりの一羽きて
あそぶ庭なりひるをひねもす

宵ながら怠りてふすかり臥しの
山のしじまのきはまりもなし

むらぎものこころいこはずいくとし月
すぎこしはてのこの疲れかも

おほよそは古きうれひも忘らへし
旅寢ごころや山の端に臥す

晝の間は鶲のとりのきてなきし
林のおくにわがひとり臥す

峽をゆく柝の音あはれ艸まくら
林の奧に臥すもあはれや

一山をゆるがしすぐる風のこゑ
しましはやがてひそまりにけり

風の日は鶲のとりも來てなかぬ
林の宿のおちゐなやあな

遠とほに大砲の音すなりけり
鵯どりのむれものの實をはむ

夕陽落つ冬木のなかの朴の木に
鵙のしまらくゐてもだしたり

冬木立ひとまはりして周章と
啼きてさりける椋のとりはや

枯芝のかのふる椅子に今宵また
下りたちにける黒鶫どり

夕庭に婆娑とくだりし鳥かげの
やがてひそけし塒とむらん

母ひとりはるばるとふるさとより僑居を
訪なひたまふ乃ち一日鎌倉に遊ぶ

母として長谷觀音のおみ足に
らふそく[#「らふそく」は底本では「ろふそく」]獻ず冬の日の暮れ

るしやな彿露座にておはすおん前に
腰くぐもれる母のあゆます

また一日さる出湯にて

ざんぎりの髮を洗はせたまふなり
ははそはのははの老いたまひけり



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