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いたずらっ子
いたずらっこ |
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作品ID | 59321 |
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著者 | アンデルセン ハンス・クリスチャン Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「マッチ売りの少女 (アンデルセン童話集Ⅲ)」 新潮文庫、新潮社 1967(昭和42)年12月10日 |
入力者 | チエコ |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2020-07-22 / 2020-06-27 |
長さの目安 | 約 6 ページ(500字/頁で計算) |
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むかしむかし、ひとりのおじいさんの詩人がいました。とてもやさしいおじいさんの詩人でした。
ある晩、おじいさんが、家の中にすわっていたときのことでした。表は、すさまじいあらしになりました。雨が、たきのように降ってきましたが、おじいさんの詩人は、部屋の中のだんろのそばで、気持よく暖まっていました。だんろでは、火が赤々と、燃えていました。リンゴが、ジュージュー、おいしそうに焼けていました。
「こんなあらしのとき、外にいるものはかわいそうだなあ。着物も、びしょぬれになってしまうだろうに」と、おじいさんの詩人は言いました。こんなに、心のやさしい人だったのです。
すると、そのときです。戸の外から、
「あけてください。ぼく、びしょぬれで、寒くてたまんないの!」とさけぶ、小さな子供の声が聞えました。子供は、泣きながら、戸をドンドンたたいています。そのあいだも、雨はザーザー降り、窓という窓は、風のためにガタガタ鳴っています。
「おお、かわいそうに!」と、おじいさんの詩人は言って、戸をあけに行きました。
表には、小さな男の子が立っています。見れば、まっぱだかで、雨水が長い金髪から、ぽたぽたと、したたり落ちているではありませんか。おまけに、寒くて、ぶるぶるふるえているのです。もしも家の中へ入れてやらなければ、こんなひどいあらしの中では、死んでしまうにちがいありません。
「おお、かわいそうに!」と、おじいさんの詩人は言って、男の子の手をとりました。「さあ、さあ、中へおいで。暖かくしてあげるよ。ブドウ酒と焼きリンゴもあげような。おまえは、かわいい子だからねえ」
男の子は、ほんとうに、かわいい子でした。目は、明るい、二つのお星さまのように、キラキラしていました。金色の髪の毛からは、まだ雨水がたれてはいましたが、でも、それはそれはきれいにうねっていました。まるで、小さな天使のようでした。ただ、寒さのために、まっさおな顔をして、からだじゅう、ぶるぶるふるえていました。手には、りっぱな弓を持っていましたが、それも、雨のために、びしょびしょになって、だめになっていました。矢にぬってあるきれいな色も、すっかりにじんでしまっていました。
おじいさんの詩人は、だんろの前に腰をおろして、ひざの上に男の子をだきあげました。そして、髪の毛の水をしぼってやったり、ひえきった男の子の手を、自分の手の中で、暖めてやったりしました。それから、あまいブドウ酒も作ってやりました。やがて、男の子は元気をとりもどしました。頬に、赤みがさしてきました。すると、さっそく、床にとびおりて、おじいさんの詩人のまわりを、ぐるぐる踊りはじめました。
「元気な子だねえ」と、おじいさんは言いました。「おまえは、なんという名前だい?」
「ぼく、キューピッドっていうの」と、男の子は答えました。「おじいさん、ぼくを知らない? ほら…