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眠りの精
ねむりのせい
作品ID59325
著者アンデルセン ハンス・クリスチャン
翻訳者矢崎 源九郎
文字遣い新字新仮名
底本 「人魚の姫 アンデルセン童話集Ⅰ」 新潮文庫、新潮社
1967(昭和42)年12月10日
入力者チエコ
校正者木下聡
公開 / 更新2019-08-04 / 2019-07-30
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 世界じゅうで、眠りの精のオーレ・ルゲイエぐらい、お話をたくさん知っている人はありません!――オーレ・ルゲイエは、ほんとうに、いくらでもお話ができるのですからね。
 夜になって、子供たちがまだお行儀よくテーブルにむかっていたり、低い椅子に腰かけたりしているころ、オーレ・ルゲイエがやってきます。オーレ・ルゲイエは、静かに静かに階段を上ってきます。なぜって、靴下しかはいていないのですからね。オーレ・ルゲイエは、そっとドアをあけて、子供たちの目の中に、シュッと、あまいミルクをつぎこみます。でも、ほんの、ほんのちょっぴりですよ。けれど、それだけでも、子供たちは、もう目をあけてはいられなくなるのです。ですから、子供たちには、オーレ・ルゲイエの姿が見えません。
 オーレ・ルゲイエは、子供たちのうしろにしのびよって、首のところをそっと吹きます。すると、子供たちの頭が、だんだん重くなってきます。ほんとですよ。でも、べつに害をくわえたわけではありません。だって、オーレ・ルゲイエは、子供たちが大好きなんですから。ただ、子供たちに静かにしていてもらいたい、と思っているだけなのです。それには、子供たちを寝床へ連れていくのがいちばんいいのです。オーレ・ルゲイエは、これからお話を聞かせようと思っているので、子供たちに静かにしていてもらいたいのです。――
 さて、子供たちが眠ってしまうと、オーレ・ルゲイエは寝床の上にすわります。見れば、たいへんりっぱな身なりをしています。上着は絹でできています。でも、それがどんな色かは、お話しすることができません。というのも、オーレ・ルゲイエがからだを動かすと、それにつれて、緑にも、赤にも、青にも、キラキラ光るのですから。両腕には、こうもりがさを一本ずつ、かかえています。一本のかさには、絵がかいてあります。それをよい子供たちの上にひろげると、その子供たちは、一晩じゅう、それはそれは楽しいお話を夢に見るのです。もう一本のかさには、なんにもかいてありません。これをお行儀のわるい子供たちの上にひろげると、その子たちは、ばかみたいに眠りこんでしまって、あくる朝目がさめても、なんにも夢を見ていないのです。
 ではこれから、オーレ・ルゲイエがヤルマールという小さな男の子のところへ、一週間じゅう毎晩、出かけていって、どんなお話をして聞かせたか、わたしたちもそれを聞くことにしましょう。お話はみんなで七つあります。一週間は、七日ですからね。

月曜日

「さあ、お聞き」オーレ・ルゲイエは、晩になると、ヤルマールを寝床へ連れていって、こう言いました。「今夜は、きれいにかざろうね」
 そうすると、植木ばちの中の、花という花が、みんな大きな木になりました。そして、長い枝を、天井の下や、かべの上にのばしました。ですから、部屋全体が、たとえようもないほど美しい、あずまやのようになり…

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