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家じゅうの人たちの言ったこと
いえじゅうのひとたちのいったこと |
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作品ID | 59372 |
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著者 | アンデルセン ハンス・クリスチャン Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「マッチ売りの少女 (アンデルセン童話集Ⅲ)」 新潮文庫、新潮社 1967(昭和42)年12月10日 |
入力者 | チエコ |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2020-07-22 / 2020-06-27 |
長さの目安 | 約 7 ページ(500字/頁で計算) |
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家じゅうの人たちは、なんと言ったでしょうか? まずさいしょに、マリーちゃんの言ったことを聞きましょう。
その日は、マリーちゃんのお誕生日でした。マリーちゃんにとっては、いちばん楽しい日のような気がしました。小さなお友だちが、大ぜいあそびにきました。マリーちゃんは、いちばんきれいな着物を着ました。その着物は、いまでは神さまのところにいらっしゃるおばあさまから、いただいたものでした。おばあさまは、明るい美しい天国にいらっしゃるまえに、自分でこの着物をたって、ぬってくださったのです。
マリーちゃんのお部屋の机の上は、いろんな贈り物で、ピカピカかがやいていました。たとえば、この上もなくかわいらしいお台所。それには、ほんとのお台所にいるものが、のこらずついていました。それから、お人形。このお人形は、おなかを押すと、目をくるくるまわして、キューッ、と、いいました。そのほか、すてきにおもしろいお話の書いてある絵本もありました。もっとも、それには、字が読めなければ、だめですけど。
けれども、どんなお話よりももっとすてきなのは、お誕生日をたくさん、むかえることでした。
「ええ、一日一日、生きていくことが、とっても楽しいわ!」と、マリーちゃんは言いました。名づけ親がそれを聞いて、これこそ、いちばん美しい物語だと、言いました。
おとなりの部屋を、ふたりのにいさんが、歩いていました。ふたりとも、大きな子で、ひとりは九つ、もうひとりは十一でした。このふたりも、一日一日が、とっても楽しそうでした。といっても、マリーちゃんのような、小さい子供ではありませんから、その生きかたも、マリーちゃんとはちがっていました。
ふたりは、元気のいい小学生で、学校の成績は、「優」でした。毎日、友だちとふざけて打ちあいをしたり、冬にはスケートをしたり、また夏には自転車を乗りまわしたりしました。それから、騎士城や、引上げ橋や、城内のろうごくの話を読んだり、アフリカ奥地の探検の話を聞いたりしました。
ひとりのにいさんは、自分が大きくならないうちに、なにもかも、発見されてしまうのではないかと思って、心配しました。それで、冒険旅行に出たがっていました。人生がいちばんおもしろい冒険の物語だよ、その中には、自分じしんがはいっているんだから、と、名づけ親は言いました。
この子供たちは、こうして、毎日毎日、部屋のなかで、わいわいさわぎまわっていました。
さて、その上の二階には、この一家からわかれた、家族が住んでいました。そこにも、子供がいました。といっても、もう大きくて、子供とはいえない人たちでした。ひとりの息子は十七で、もうひとりは二十。三番目の人は、それよりももっと年上よ、と、マリーちゃんは言っていました。この息子は二十五で、婚約していました。
三人の息子は、みんな幸福でした。いい両親はありますし、…