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お墓の中の坊や
おはかのなかのぼうや |
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作品ID | 59373 |
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著者 | アンデルセン ハンス・クリスチャン Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「マッチ売りの少女 (アンデルセン童話集Ⅲ)」 新潮文庫、新潮社 1967(昭和42)年12月10日 |
入力者 | チエコ |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2020-02-23 / 2020-01-24 |
長さの目安 | 約 13 ページ(500字/頁で計算) |
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家の中は、ふかい悲しみで、いっぱいでした。心の中も、悲しみで、いっぱいでした。四つになる、いちばん下の男の子が、死んだのです。この子は、ひとり息子でした。おとうさんと、おかあさんにとっては、大きなよろこびであり、また、これから先の希望でもあったのです。
この子には、ねえさんがふたり、ありました。上のねえさんは、ちょうどこの年、堅信礼を、受けることになっていました。ふたりとも、おとなしくて、かわいらしい娘たちでした。けれども、死んだ子供というものは、だれにとっても、いちばんかわいいものです。それに、この子は末っ子で、ひとり息子だったのです。ほんとうに、悲しい、つらいことでした。
ねえさんたちは、若い心をいためて、悲しみました。おとうさんとおかあさんが、なげき悲しんでいるのを見ると、いっそう悲しくなりました。おとうさんは、深くうなだれていました。おかあさんは、大きな悲しみにうちまかされていました。
おかあさんは、夜も昼も、病気の坊やにつききりで、看病したり、だいてやったりしたものでした。おかあさんは、この子が、自分の一部だということを、はっきりと感じました。坊やが死んで、お棺に入れられ、お墓の中にうめられるなどということは、おかあさんにとっては、どうしても考えることができませんでした。神さまだって、まさか、この子をお取りあげになるようなことはなさるまい、と、おかあさんは思ったのです。それなのに、その坊やが、とうとう、死んでしまったのです。おかあさんは、あまりの悲しさに、われを忘れてこう言いました。
「神さまは、ごぞんじないのですね。神さまは、なさけを知らないしもべを、この世におつかわしになったのです。なさけしらずのしもべたちは、自分かってなふるまいをして母親の祈りを、聞いてはくれないのです」
おかあさんは、悲しみのあまり、神さまを見うしなってしまいました。すると、暗い考えが、死の考えが、しのびよってきました。人間は、土の中で土にかえり、それとともに、すべてはおわってしまう、という、永遠の死の考えです。こういう考えにつきまとわれては、もう、なに一つ、たよるべきものもありません。おかあさんは、底しれない絶望のふちへ、深く深くしずんでいきました。
いちばん苦しいときには、おかあさんは、泣くことさえできませんでした。もう、娘たちのことも、考えませんでした。おとうさんの涙が、自分のひたいの上に落ちてきても、目をあげて、おとうさんを見ようともしませんでした。おかあさんは、死んだ坊やのことばかり思いつづけていたのです。いまのおかあさんは、ただひとえに、坊やの思い出を、坊やの言ったむじゃきな言葉を、一つ一つ、呼びもどそうとするために生きているようなものでした。
いよいよ、お葬式の日がきました。それまでというもの、おかあさんは、一晩も眠ったことがありませんでした。そ…