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かけっこ
かけっこ
作品ID59374
著者アンデルセン ハンス・クリスチャン
翻訳者矢崎 源九郎
文字遣い新字新仮名
底本 「マッチ売りの少女 (アンデルセン童話集Ⅲ)」 新潮文庫、新潮社
1967(昭和42)年12月10日
入力者チエコ
校正者木下聡
公開 / 更新2020-09-08 / 2020-08-28
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ごほうびの賞が、一つ出ました。いいえ、ほんとうは二つです。小さい賞と大きい賞の二つです。いちばん早いものが、この賞をもらえます。といっても、それは一回きりの競走で、早かったものがもらえるのではありません。一年じゅうをとおして、いちばん早く走ったものがもらえるのです。
「ぼくは、一等賞をもらった」と、ウサギが言いました。「審判官の中に、親類や親しい友だちが、まじっているときには、よくよく注意して、正しくきめるようにしなければいけない。カタツムリくんは二等賞をもらったが、ぼくに言わせれば、これは、どうもばかにされたようで、おもしろくない」
「いや、そんなことはないよ」と、さくのくいが、きっぱりと、言いました。このくいは、賞をあたえるときに、その場にいあわせた人です。「熱心さと、親切ということも、考えに入れなくてはならんからね。尊敬すべき、二、三の人たちも、そう言っていた。もちろん、ぼくも同じ考えだった。たしかに、カタツムリくんは、戸のしきいをこえるのに、半年もかかっている。だが、それでも、カタツムリくんとしては、せいいっぱい、いそいだわけで、そのために、ももの骨まで折ってしまった。カタツムリくんは、ただただ、走ることだけを考えて生きてきた。しかも、自分の家をせおって、走ったんだよ。――じつに、感心なことじゃないか。だからこそカタツムリくんは、二等賞をもらったんだよ」
「ぼくのことも、考えてもらいたかったですね」と、ツバメが、口を出しました。「まず、とぶことと、くるりと回ることについては、ぼくより早いものは、いないはずですからね。それに、ぼくは、どんなところへもとんでいっているんですよ。遠い、遠いところまで!」
「そのとおり。それが、かえって、きみの不幸なんだよ」と、さくのくいが、言いました。「きみは、あんまりとびまわりすぎるよ。寒くなりはじめると、いつもきまって、この国からどこかへ行ってしまう。きみは、自分の生れた国を愛するという、気持を持っていない。それで、きみは、考えにいれてもらえなかったんだよ」
「じゃあ、もしぼくが、沼の中に、一冬じゅうじっとしていて、ずうっと眠っていたとしたら、そしたら、ぼくも考えてもらえるんですか?」と、ツバメはたずねました。
「もし、沼のおかみさんが、たしかに、『きみは、一冬の半分を、この生れた国で眠ってすごした』と書いてくれるんなら、きみも考えてもらえるよ」
「ぼくには、一等賞をもらう、ねうちがあったんだ。二等賞をもらうべきじゃない」と、カタツムリが言い出しました。
「ぼくは、ちゃあんと知ってるよ。ウサギくんが早く走るのは、おくびょうだからなんだ。あの人は、危険が近づいたと思うと、むがむちゅうで走りだすんだ。ぼくは、ちがう。ぼくは走ることを、一生の仕事にしてきたんだ。あんまり、仕事にむちゅうになりすぎて、このとおり、かたわものに…

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