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とびくらべ
とびくらべ |
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作品ID | 59375 |
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著者 | アンデルセン ハンス・クリスチャン Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「マッチ売りの少女 (アンデルセン童話集Ⅲ)」 新潮文庫、新潮社 1967(昭和42)年12月10日 |
入力者 | チエコ |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2020-10-19 / 2020-09-28 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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あるとき、ノミと、バッタと、とび人形(注)が、われわれの中で、だれがいちばん高くとべるか、ひとつ、ためしてみようじゃないか、と言いました。そこで、さっそく、世界じゅうの人々に招待状を出して、このすばらしいとびくらべを見たいと思う人は、だれでも、呼んであげることにしました。
さて、いよいよ、この三人の高とびの選手たちが、そろって部屋の中にはいってきました。
「では、いちばん高くとんだものに、わしの娘をやることにしよう」と、王さまが言いました。「せっかく、高くとんでも、ほうびがなにもないのでは、かわいそうだからのう」
ノミが、いちばんさきに出てきました。ノミは、礼儀作法をちゃんと心得ていて、あっちへもこっちへも、ていねいにおじぎをしました。むりもありません。ノミのからだの中には、お嬢さんの血が流れているのですからね。それに、ノミがいつもおつきあいしているのは、人間ばかりですしね。これも、忘れてはならない、たいせつなことです。
二番めに、バッタが出てきました。ノミよりも、ずっと重たそうなからだつきをしていましたが、それでも、からだの動かしかたなどは、なかなかじょうずなものでした。そして、緑色の制服を着ていましたが、これは生れたときから、身につけているものでした。それに、自分で話しているところによると、なんでも、エジプトという国の、たいへん古い家がらの生れだそうで、その国ではみんなからたいそう尊敬されている、ということでした。でも、ほんとうのところ、このバッタは、おもての原っぱから連れてこられて、三階だての、トランプの家の中に入れられたのです。そのトランプの家というのは、トランプのカードの絵のあるほうを、内側へむけて、作ったものでした。戸や窓もちゃんとついていて、ちょうど、ハートの女王のからだのところにありました。
「ぼくがうたいますとね」と、バッタは言いました。「じつは、この国で生れたコオロギが、十六ぴきいるんですが、その連中ときたら、小さいときから、ピーピー鳴いているのに、いまになっても、まだトランプの家に入れてもらえないものですから、ぼくがうたうのを聞くたびに、しゃくにさわって、まえよりも、もっともっとやせてしまうんですよ」
こうして、ノミとバッタのふたりは、自分たちが、どういうものであるかを、かわるがわる、しゃべりたてました。そして準備もじゅうぶんにして、自分こそ、お姫さまをお嫁さんにもらうことができるものと、思いこんでいました。
とび人形は、なんにも言いませんでした。でも、かえって、それだけ考えぶかいのだと、人々は言いました。それから、イヌは、ただにおいをかいだだけで、このとび人形は生れがいいと、うけあいました。また、だまってばかりいるので、そのごほうびに、勲章を三つもいただいた年よりの顧問官は、このとび人形はたしかに予言の力をもっております、…