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カラー
カラー
作品ID59376
著者アンデルセン ハンス・クリスチャン
翻訳者矢崎 源九郎
文字遣い新字新仮名
底本 「マッチ売りの少女 (アンデルセン童話集Ⅲ)」 新潮文庫、新潮社
1967(昭和42)年12月10日
入力者チエコ
校正者木下聡
公開 / 更新2020-09-15 / 2020-08-28
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 あるところに、ひとりのりっぱな紳士がいました。この紳士は靴ぬぎと、それにくしを一つ、持っていました。これが、この人の持物のぜんぶだったのです。そのかわり、この紳士は、世界でいちばんきれいなカラーを持っていました。これから、わたしたちが聞くお話は、このカラーについてのお話なんですよ。
 さて、カラーは年ごろになりましたので、ぼつぼつ、結婚したいと思いました。すると、あるとき、ぐうぜん、せんたくものの中で、靴下どめに出会いました。
「これは、これは!」と、カラーは言いました。「いままでわたしは、あなたのようにすらりとして、じようひんで、しかも、しとやかで、きれいなかたを、見たことがありません。お名前をうかがわせていただけませんか?」
「申しあげられませんわ」と、靴下どめは言いました。
「どちらにおすまいですか?」と、カラーはたずねました。
 けれども、靴下どめは、ひどくはずかしがりやだったものですから、そんなことに答えるのは、なんだかおかしな気がしました。
「あなたは、きっと、帯なんですね」と、カラーは言いました。「それも、着物の下にしめる帯なんでしょう。あなたが、じっさいの役にも立ち、飾りにもなるくらいのことは、ぼくにだって、ちゃあんとわかりますよ。かわいいお嬢さん!」
「あたしに話しかけないでください」と、靴下どめは言いました。「あなたにお話するきっかけをあげたつもりはありませんわ」
「とんでもない、あなたのようにおきれいならば」と、カラーは言いました。「きっかけなんて、じゅうぶんありますよ」
「あんまり、そばへ寄らないでくださいな」と、靴下どめは言いました。「あなたって、ずいぶん、ずうずうしそうですもの」
「ぼくは、これでもりっぱな紳士ですよ」と、カラーは言いました。「ぼくは、靴ぬぎや、くしを、持っているんですからね」
 といっても、これは、ほんとうのことではありません。靴ぬぎや、くしを持っているのは、カラーのご主人なんですからね。カラーは、ほらをふいたのでした。
「そばへ来ないでください」と、靴下どめは言いました。「あたし、こういうことに、なれていないんですもの」
「気取りやめ」と、カラーは言いました。
 そのとき、カラーはせんたくものの中から取り出されました。そして、のりをつけられて、椅子の上で日にあてられました。それから、アイロン台の上に寝かされました。すると、そこへ、あついアイロンがやってきました。
「奥さん!」と、カラーは言いました。「かわいい未亡人の奥さん。ぼくは、すっかりあつくなりましたよ。もう、見ちがえるようになりました。しわもなくなって、こんなにきれいになりました。おまけに、焼け穴までこしらえてくれましたね。うう、あつい!――ぼくはあなたに、結婚を申しこみますよ」
「ふん、ぼろきれのくせに!」と、アイロンは言って、カラーの上を、いばって…

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