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涙をもつて正義をささえる
なみだをもってせいぎをささえる
作品ID59386
著者金森 徳次郎
文字遣い新字新仮名
底本 「涙をもつて正義をささえる」 法務大臣官房秘書課広報連絡室
1958(昭和33)年3月
初出「第八回検察文化の会」1956(昭和31)年
入力者フクポー
校正者The Creative CAT
公開 / 更新2019-06-16 / 2019-10-05
長さの目安約 39 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私は検察のことは全然存じません。いろんなことを学問その他の面からやりました。然し、幸か不幸か検察に関することは何等の経験も知識もございません。それでは何のために出たかというとその理屈は別といたしまして、心の中は非常にやましいのでございます。知らずして言う、これは非常に悪いことです。私は正義をささえるには涙をもつてせよということでございますが、社会正義は冷たい考えだけで支えられるものではない。あらゆる面を考えまして溢れるが如き涙ぐましい心をもつて正義を求めねばならぬというのであります。いろいろと刑事行政の専門家の話をうかがつていると、この世の中に果して正義が行われておるであろうかという、この世上一般に対する疑問が起つて来たわけであります。何故かというと、犯罪を犯しても容易なことではその処罰が行われない。余程はつきりした証拠があり、あらゆる研究をかけてどうしてもこれを問題にするというときに、はじめて正義問題が舞台に上るのであります。多くのものは免れて恥なしというような気がしておるわけであります。私はかつて大臣をやつておりましたときに議会で時の司法大臣に質問があり、「一体闇米を汽軍で運搬するとき、自分達の親類や何かに喰わすのに闇米を運んでおるけれども、それを警察当局は摘発して闇米をとり上げてしまつて、或いは刑罰をもつて臨んでおる。これは怪しからん」という。こんなふうな質問でございました。そのとき司法大臣は「いやそんな時には決して摘発することはしないのだ。自分の責任をもつてそんなことはしないようにする」という、こういう宣言をいたしましたところ、その多くの委員会の人人は拍手せんばかりにこれを歓迎いたしました。私はこれを聞いておりまして非常に悪印象を受けたわけでございます。何故かというと、悪いことをやつても、国法で禁じられるということをやつても、司法大臣は罰しないぞということを議会の委員会で正式に論じ、しかも聞いておる委員諸君は拍手をもつてこれを迎えたのであります。私は立場が少しちがつております。最後の是非善悪の決断は難かしいのでありますけれども、これを一口につづめてみますと国法は現実存在しておつても、国法を守らざることに対して、時の司法大臣が議政壇上において宣言した。而して国民の代表はこれを喝采した。こういうことでございますと、私の立場からいうと、法律というものは一体何の価値があるか、国会をつくり、法律をつくり、これを官報にのせて国民はこれを守るべし、法律こそは守るべきものであるといつておつても、すべての人これをふみにじつて平気でいる。
 たまたま法を守つて食物が少くなつて餓え死んだところの某裁判官の如きも、当初は誰も同情したが、後に至ると、肚の中では愚かしき法の犠牲だと思つておつた人があるかも知れん。結局は強いものが勝ち或は多数が勝つのであります。その多数は国民の…

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