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「悪霊物語」自作解説
「あくりょうものがたり」じさくかいせつ |
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作品ID | 59399 |
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著者 | 江戸川 乱歩 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「江戸川乱歩全集 第17巻 化人幻戯」 光文社文庫、光文社 2005(平成17)年4月20日 |
初出 | 「講談倶楽部」講談社、1954(昭和29)年9月増刊 |
入力者 | 植松健伍 |
校正者 | Juki |
公開 / 更新 | 2019-07-02 / 2019-07-01 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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私のつけ句
連作とは連歌俳諧の如きものであろう。第一の発句は余り限定的でない方がよろしい。脇はこれをいかようにも受けとるであろう。第三はまたそれを別の方向に転化するであろう。そして、最後の揚句と最初の発句とは似もつかぬ姿となることもあり得る。
私はこの連作の第一回を、ホフマンの「砂男」や、ワイルドの「ドリアン・グレイ」を連想しながら書いた。これをすなおに引きのばせば、幻想怪奇の物語となる。老人形師は人形に生命を吹きこむ錬金術師であろう。また、モデル女を誘拐し、監禁する色魔であろう。小説家はこの老魔術師の心を知る人である。知りながら、その妖術のとりことなるのである。
彼はその女の、人間とも人形ともつかぬ妖美にうたれ、これを恋するであろう。この女は人間か、それとも老魔術師が造り出した人形か、この疑惑は物語の終りまで解けないであろう。
冷たい滑かな蝋人の肌に惹かれて、小説家は狂気する。老人形師は彼の恋がたきである。その狡猾な術策と戦わねばならぬ。美女は彼を魅惑し、翻弄し、あらゆる痴態をつくすであろう。その幾場面が語られる。
或る時は、むせ返る酒場の喧噪の中に、妖女は透き通るからだを酔いの桃色に染めて嬌笑するであろう。或る時は、廃園の森の奥深く、泉の水中に長いかみの毛を藻となびかせて、もがきたわむれるであろう。真紅のビロウドのベッドを背景としてもよろしい。青空の風船の吊籠の別世界に、詩人と妖女と相抱きながら、下界を嘲笑してもよろしい。しかし、二人のうしろには、たえまなく、老魔術師の黒い影と、狡猾な悪念がつきまとっている。
さて、その『揚句』は美しき死であろうか。小説家はこの世のほかの妖美に酔いしれて、女と折り重なって息絶えるであろう。そして、美女の死体は、人肉ではなくて、永遠に変ることなき、透き通る蝋の肌なのである。
(「講談倶楽部」昭和二十九年九月増刊)