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絞首刑
こうしゅけい
原題A Hanging
著者オーウェル ジョージ
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2019-05-23 / 2019-04-25
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 それはビルマでのこと、雨に濡れそぼった朝だった。黄色いアルミ箔のような病んだ光が、監獄の高い壁越しに斜めに射し込んでいた。私たちは死刑囚監房の外で待機していた。小動物の檻に似て、一並びの房の前には二重の格子があった。夫々の房はおよそ二間四方で、中は本当に殺風景、板ベッドと飲み水の瓶が一つあるきりだった。房のいくつかでは、内側の格子の中に褐色をした人々が音もなく座り込み、自分らの毛布を周りに巡らしていた。これらは死を宣告された者達だ。来週か再来週には吊るされる。
 一人の囚人が独房から出されたところだった。男はヒンドゥー教徒で、痩せこけて弱々しく、剃髪しており、虚ろでしょぼついた目をしていた。口髭はボウボウ、身体に比べて馬鹿げたほど大きく、なんだか映画にでてくるコメディアンの髭のようだった。背の高いインド人看守が六人、男を見張りつつ絞首台に連行する準備をしていた。男の傍には二人の看守が銃剣付きのライフルを持って立ち、その間、残りの看守たちは男に手錠をかけ、手錠に鎖を通し、その鎖を自分らのベルトに止め、男の両腕をその両脇できつく縛り上げた。看守達は男にぴったり寄り添い、常に注意深く、なだめるように手をかけていた。あたかも男がずっとそこに存在するか、感触で確かめようとするかのように。まだ息があり、水中に跳ね戻るかもしれない魚を、逃さないでおこうとする者達の手つきに似ていた。だが男は一切逆らうことなく立っていた。なすすべもなく腕をロープで縛られ、まるで何が起こっているのか気づいていないかのように。
 八時の時鐘と共にラッパが鳴った。遠くの兵舎から、湿った大気を通して心寂しく漂っていた。私たちから離れて立つ監督者は、杖でもの憂く砂利をかき回していたのだが、この音を聞いて頭を上げた。灰色の髭を四角く揃えた軍医で、嗄れた声の持ち主だ。苛立って「頼むから急いでくれ、フランシス」と言った。「この時刻にはもう死んでいるはずの男だぞ。何をしているんだ?」
 白いドリル織りのスーツと金眼鏡のドラヴィダ人である看守長フランシスが黒い手を振った。「イエス・サー、イエス・サー」ぶつぶつ答えた。「準備は万端でありまス。絞刑吏も待機しとりまス。直ちに向かいまス。」
「よろしい。なら早くしろ。この仕事が終わるまで囚人達は朝食にありつけない。」
 私たちは絞首台に向けて出発した。担え銃の姿勢の看守がふたり囚人の両側を固め、他の二人の看守が腕と肩とを掴んで、あたかも押しやりつつ支えようとするかのように囚人にぴったり張り付いた。残りの者は執政官などだったが、その後に続いた。十メートルほど歩いた所で何らの命令も警告もなしにいきなり行進が止まった。恐ろしい事態が出来していた――どこから来たものやら、一頭の犬が刑場に現れたのである。犬は立て続けに大きな吠え声をたてて私たちの間に飛び込み、全身をくねらせて…

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