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それからそれ
それからそれ
作品ID59420
副題書斎山岳文断片
しょさいさんがくぶんだんぺん
著者宇野 浩二
文字遣い新字新仮名
底本 「紀行とエッセーで読む 作家の山旅」 ヤマケイ文庫、山と溪谷社
2017(平成29)年3月1日
初出「山 第一卷第七號」梓書房、1934(昭和9)年7月1日
入力者富田晶子
校正者雪森
公開 / 更新2020-07-26 / 2020-06-30
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 今年の三月上旬頃、井伏鱒二の『青ヶ島大概記』を読みながら(この小説は佳作である)、私は青ヶ島という言葉を何時かずっと前、何かで読んだことがあると思って、絶えずそれが気になった。その時は直ぐ思い出せなかったが、それから一月程後、ふと、そうだ、志賀重昂(矧川)の『日本風景論』書出の文句の中にあった、と思い出した。
 ――「江山洵美是吾郷」〔大槻盤渓〕と、身世誰か吾郷の洵美を謂はざる者ある、青ヶ島や、南洋浩渺の間なる一頃の噴火島、爆然轟裂、火光煽々、天日を焼き、石を降らし、灰を散じ、島中の人畜殆ど斃れ尽く、僅に十数人の船を艤して災を八丈島に逃れたるのみ、而も此の十数人竟に其の噴火島たる古郷を遺却せず、火の熄むを待つこと十三年、乃ち八丈を出て欣々乎として其の多災なる古郷に帰りき、占守や、窮北不毛の絶島(千島の内)、層氷累雪の処のみ、後、開拓使有使の其の土人を南方色丹島に遷徒せしむや、色丹の地、棋楠樹青蒼、落葉松濃かに、黒狐、三毛狐其蔭に躍り、流水涓々として処々に駛り、玉蜀黍穫べく馬鈴薯植うべく、田園を開拓するものは賞与の典あり、而も遷徒の土人、新楽土を喜ばずして、帰心督促、三々五々時に其の窮北不毛の故島に返り去る、(後略)――
『日本風景論』は明治二十七年十月二十九日に初版が発売され、私の持っている十一版は明治三十三年八月六日発行であるから、約六年の間に十一版を重ねている。これは当時の出版界では可なり読まれた証拠になる。尤も、私がこの本を買ったのは、今から十三四年前、本郷の古本屋である。
 買った当時、私は嬉しくて、二三度この本を通読したものである。

 一昨年の秋(?)のことである。私がその『日本風景論』を手に入れた頃、これも三度も四度も(それ以上)通読した『日本アルプス』の著者小島烏水に思いがけない所で知る栄を得たばかりでなく、その崇拝していた先輩から『氷河と万年雪の山』という本を贈られた。私は贈られたその日にその本を通読した。尤も、その本の中には既に新聞雑誌で読んだものが十数篇入っていたが。
(前記『日本アルプス』四巻は、四五年前、友人に貸し無くしたので、残念ながら、その初版出版年月を記憶しない。)
 その『氷河と万年雪の山』の中の「槍ヶ岳の昔話」と題する一篇の中に、
「近ごろの古本漁りは、江戸時代は珍本どころか、大抵の安本までが、払底のため、明治時代に下って、初期の『文明開化』物から、硯友社あたりの、初版本にまで及ばしているようだ。(中略)殊に私の興味をひいているところの山岳図書において、そうである。夏向きになると『日本アルプス』の名が、聞こえない日とては、無いようだが、ウェストンの『日本アルプス』を、幾人の日本人が所蔵しているだろうか。(中略)尤も孰れも英文であるから、日本人が所持していないとならば、志賀重昂氏の『日本風景論』はどうであろう。志賀氏の主張…

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