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![]() きじのはなし |
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作品ID | 59426 |
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原題 | STORY OF A PHEASANT |
著者 | 小泉 八雲 Ⓦ |
翻訳者 | 田部 隆次 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「小泉八雲全集第八卷 家庭版」 第一書房 1937(昭和12)年1月15日 |
入力者 | 館野浩美 |
校正者 | 大久保ゆう |
公開 / 更新 | 2020-09-26 / 2020-08-28 |
長さの目安 | 約 4 ページ(500字/頁で計算) |
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昔、尾州遠山の里に若い農夫とその妻が住んでいた。家は山の間の淋しい場所にあった。
ある夜妻は夢を見た。その夢に数年前になくなった舅が来て『明日自分は非常に危険な目に遇うから、できるなら助けてくれ』と云った。朝になってこの事を夫に話した。二人とも、死んだ人が何か用があるのだろうとは思ったが、その夢の言葉は何の意味か分らなかった。
朝飯の後、夫は畠へ行ったが妻は機織のために家に残った。やがて外の方で大きな騒ぎが聞えたので驚いて出てみると、地頭が大勢の伴をつれて狩猟のためにこの辺へ近づいて来た。見ているうちに一羽の雉子がわきの方から家の中へ飛び込んだ。そこで不図昨夜の夢を想い出した。『事によればこれが舅かもしれない。助けて上げねばなるまい』――彼女は独りで思案した。それから鳥のあとから急いで家に入って――その鳥は綺麗な雄鳥であった――造作なくそれを捕えて、空の米櫃の中に入れて蓋をしておいた。
しばらくして地頭の従者が幾人か入って来て、雉子を見なかったかと尋ねた。大胆にも彼女は否定したが、猟人の一人はその家へ鳥の飛び込むのをたしかに見たと云った。それから一行は家の中をあちらこちらとさがしたが、米櫃の中には気付かなかった。そのあたりくまなく捜索したが結局無駄であったので、鳥はどこか穴からでも逃げたに相違ないとあきらめて人々は引き上げた。
農夫が家に帰った時、妻は夫に見せるために米櫃に隠しておいた雉子の話をした。
『私が捕えた時すこしも抵抗しなかったが、米櫃の中でもおとなしくしています。きっと舅様だと思います』と妻は云った。農夫は米櫃の処へ行って、蓋を取って鳥を取出した。鳥は農夫の手に静にとまって、そこに居ることに慣れているように農夫を見ていた。一方の目が盲目であった。『父の目は一方盲目であった』農夫が云った、『右の眼であった、この鳥の右の眼が盲目だ。全くこれは父だろう。丁度いつもの父のような眼付で、この鳥が見ている。……父は自分で「おれは今、鳥だから、猟師などにやるのなら一層おれの体は子供に喰わしてやる方がましだ」と考えたに相違ない。……それで、お前の昨夜の夢の訳も分った』と気味の悪いうす笑をうかべて妻の方に向ってこう云い足しながら雉子の頸をねじた。
この野蛮な行を見て、妻は泣き声を上げて叫んだ。
『まあ、この極悪非道の鬼。鬼のような心の人間でなければ、こんな事のできる筈はない。……こんな男の妻になっているより死んだ方が増しだ』
それから草履もはかずに戸外に飛び出した。男は女の飛び出した時に袖をつかんだ、が女は振切って駆け出した。駆けながら泣いた。はだしで走り続けた。町に着いて、すぐ地頭の屋形へ急いだ。それから涙とともに、猟の前夜の夢の事、雉子を助けたさの余り隠した事、それから夫が自分を嘲って、とうとうその雉子を殺した事の一切を地頭に話した。
地頭は…