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憲政の本義を説いてその有終の美を済すの途を論ず
けんせいのほんぎをといてそのゆうしゅうのびをなすのみちをろんず
作品ID59471
著者吉野 作造
文字遣い新字新仮名
底本 「吉野作造評論集」 岩波文庫、岩波書店
1975(昭和50)年7月16日
初出「中央公論」中央公論社、1916(大正5)年1月号
入力者石井彰文
校正者染川隆俊
公開 / 更新2024-03-18 / 2024-03-02
長さの目安約 172 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 去年十二月一日より東京に開かれたる全国中学校長会議において、高田新文相が特に訓示を与えて立憲思想養成の急務を説きたる事と、水戸中学校長菊池謙二郎氏が起って大隈内閣の居据りと立憲思想との関係の説明を求めて文相に肉薄した事とは、著しく世間の耳目を惹いた。訓示の一節に曰く。

(上略)中等教育ニハ種々ノ方針アルベキモ、余ノ見解ヲ以テスレバ、立憲思想ノ養成ヲ刻下ノ急務ナリト信ズ。我ガ国ニ於テハ、憲法施行以来日尚浅ク、国民ノ憲政ニ通ゼザルコトハ過般ノ総選挙ニ於テ見ルニ明ラカナリ。立憲政治ノ運用ヲ愆マラザルト否トハ、国家ノ重大問題ナレバ、特ニ中等教育ノ任ニ当ルモノハ充分其点ニ関シ留意セラレンコトヲ希望ス(下略)。

 従来歴代の文部当局者も中学校長会議に同様の訓示を発せし事これまであったかどうかは、予の明知せざる所なれども、多年野に在りて立憲思想鼓吹の必要を唱え来りし高田氏の事なれば、今度特にこの点を力説高調して中学校長諸氏の注意を喚起したのは怪しむに足らない。
 これまで同じような機会に同じような訓示を発した事は仮りに無いとしても、民間における立憲思想の養成を必要とするの説は、決して新しきものではない。しかして教育機関の協戮によりてこの思想を民間に普及する事が最も手短かにして且つ最も有効なる方法なりという事も、実はよほど早くから認められておった。中学校教科課程の中に法制の一科を加えたのもこの趣旨に基づくのである。しかしながら、これらの施設は果たしてその目的を達したであろうか。我が国の憲政はその創設以来既に四半世紀の星霜を閲して居る。しかもその間憲政に対する国民の思想はどれだけ進歩したであろうか。今日この際文相の口より改まって立憲思想養成の必要を聞くのは、たまたま民論開拓の過去の努力の不成功を証明するものではあるまいか。
 いずれにしても立憲思想の養成は今日なおいわゆる「刻下の急務」である。この点において予輩は全然高田文相と同感である。しかしながら、口に言うは甚だ易い。ただ問題は、いかにして立憲思想養成の目的を達すべきやである。幾度繰返してその必要を絶叫しても、いかにせば果たして能くこの目的を達するかの具体的方法を示さずしては、せっかく訓令の主意をもっともと感じた教育家諸君も、イザとなって手の着けようがあるまい。しからば文部当局者は果たして教育家の実地指南たるべき細目の成案を有って居るのであろうか。
 立憲思想養成の具体的方法の攻究は、立憲政治その物の正確なる理解を以て始まらねばならぬ。不正確なる理解を基礎としては、決して適当なる方法の組み立てられよう筈はない。しかして予は平素我が国のいわゆる識者階級間に、立憲思想に関する理解の極めて不明瞭・不徹底なることを遺憾とする者である。高田文相は従来立憲思想の鼓吹と普及とには少なからず尽力した人だと聞えておったが、菊池水戸中学…

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