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![]() かえるりょうり |
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作品ID | 59479 |
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著者 | 久生 十蘭 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「定本 久生十蘭全集 6」 国書刊行会 2010(平成22)年3月25日 |
初出 | 「朝日新聞」朝日新聞大阪本社、1946(昭和21)年10月7日 |
入力者 | かな とよみ |
校正者 | きゅうり |
公開 / 更新 | 2020-04-06 / 2020-03-29 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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むぐらをわけて行くと、むやみに赤蛙がとびだす。ふとフランスで食べた蛙料理を思ひだした。
牛酪焼の蛙の脚をつまんで歯でしごくと、小鳥よりもやはらかでなんともいへぬ香気が口の中にひろがる。
「おい、蛙のソーテは乙だつたな」といふと、並んで歩いてゐた石田が、
「おれもそれを考へてゐたところだ。こいつを忘れてゐたのは醜態だよ。おい、やらう」
「やつてもいゝが、皮を剥ぐのはごめんだ」
「脚首ンとこをむしつて、ぴいつとひつぱがすんだ。手袋をぬぐより楽だ。おれがやる」
三十何匹おさへつけて帰つたが、間もなく石田がソーテにして持つてきた。
なかなかよろしい。が、チトめうだ。
「こんな長い脛の蛙がゐたかなア」
「やや、見あらはされたか。どうも、やりかねてねえ、しやうがないから、隣にたのんで兎を一匹つぶしてもらつたんだ。おかげで八十円がとこ損をした」と頭を掻いた。