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幽霊島
ゆうれいとう
原題The Island of Shadows
著者
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1892年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2019-02-26 / 2019-01-28
長さの目安約 124 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

第一章
 五年ほど前の三月、とある晴天の午後、グリニッジの古風な宿で、二人の男が出窓部屋に座り、目の前に置かれた大量の海図や地図を覗きこんでいた。
 赤い夕日が川面を照らし、見事な船が何艘も浮かび、灰色のマストが針のように空を刺し、夕日が低い屋根造りの樫壁に差し込み、中に座った男達を金色に染めた。
 部屋は専用だったので、誰も砂まみれの床を踏む者はなく、酔っ払い船員が聖域を乱す事もなかった。
 のどかな美しい情景も、きらきら波立つ川が黄金の水平線に消え行くのも、男達は見もせず、気にもかけない。
 二人のうち年長の男は海で生まれたかのような風貌を持ち、いかつい顔は強風で赤茶に変色し、澄んだ青い瞳は大胆不敵に光り、白髪は場違いを思わせるものの、体格は筋骨隆々、二十五年前と変わらない。
 トム・アームストロングは、通称アームストロング船長で通り、もしうぬぼれ男だったなら、世界中で俺を知らぬ者はいないなどと、うそぶきかねない。五年程おかに上がり、蓄えた小金で暮らし、好きな宝探しに熱中していた。この分野で船長の博識を知るものはなく、雄大な古アシカ岬で驚くべき発見をしたことを知るものもいなかった。
 船長の連れは名前がハロルド・コベントリ、二十六歳そこそこの若者だった。船長同様、海に熱中し、少しも裕福じゃないが、どうにか一艘の小さなヨットを持ち、どこの海へも突き進む。アームストロング船長との友情は長く、操船術の全てを学び、能力は生まれついてのもの、出自が高名な海軍一族であり、同家の名声はエリザベス朝から轟いていた。
 同家の先祖がカリブ海で財産を築き、仲間にドレーク総督や、フロビシャー、マーチンがいた。だが、長いこと冒険したり、あちこち荒らし回ったりして、刺激を求めた結果、今や同家の末裔がこの若者に残したものはほとんどなく、残ったのはただ、海にまつわる一族の栄光と、年間三百ポンド程の収入と、大量の書類やら、羊皮紙やら、記録などがあるに過ぎず、本人は興味がほとんどなかったが、アームストロング船長にはこの上ない喜びであった。
 アームストロング船長の部屋『人魚姫』で書類を広げて、どぎつい陽光に当てていたのが、かすれた紙や黄色い羊皮紙、特に船長の手にした羊皮紙の断片は念入りだ。
「好きなだけ物笑いにするがいい。だけど、わしが正しい」
「ええ、船長はいつも正しいです。暗号の一部ですね。我が家の言い伝えでは、すごい宝に関わるものだとか。すごいとしか知りませんが」
「キミの話を復唱しよう。キミの先祖のエイミアス・コベントリが三人の紳士達と一五七九年六月プリマス港を船出して、無事に航海して、ベラクルスに着いた。十四歳の娘バラリイを同伴していた。そんな小娘を乗せるとは妙だが、連れて行った。当時のアルバトロス号の航海日誌は今キミの所有物だが、わしが次のくだりを発見した」
 船長が取り上げ…

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