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書翰
しょかん
副題045 大正十一年九月(推定) 小島勗宛
045 たいしょうじゅういちねんくがつ(すいてい) こじまつとむあて
著者横光 利一
文字遣い旧字旧仮名
底本 「定本 横光利一全集 第十六卷」 河出書房新社
1987(昭和62)年12月20日
入力者橘美花
校正者奥野未悠
公開 / 更新2020-06-24 / 2020-05-27
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

45 九月(推定)小島勗宛(四百字詰原稿用紙十二枚・ペン書)

矢張り僕は、あの手紙を、もう少し待つて、もう少し長くかかつて書くべきであつたと思ふ。今から思ふと、あのままでは、非常に僕自身不愉快でもあり、君も、僕の書きたらないために不愉快を感じたにちがひないと思はれる。不愉快さを感じる可き所に感じて貰ふのには、僕はまだ忍耐が出來るとしても、さうでない所に感じられるのは不愉快なことである。しなくてもいい心のもつれ、さう云ふ種類の誤解を甚だし易いやうな微妙な心理ばかりを、殆どなぐり書きに荒々しく書いたやうな氣持ちがする。云へば云ふほど、云ひたりないやうな氣持ちのして來る手紙であつた。ならうことなら、君から不愉快なところを、我慢をせずに云つて貰へば、尚、僕もはつきりして氣持ちよくなれると思ふ。かう云ふことを書き出せば、君はうるさいと云ふかもしれない。が、出來るだけは、我慢をして讀んでほしい。もつとも、昨夜書いたあの手紙は、あの手紙にも云つた通り、あの手紙の部分だけでさへ、創作にすればかなりに長い長篇になる。いづれ、發表してもいい時期がくれば、心理經過を少しももらさず細密に書いてみるつもりもある。しかし、そのときまで誤解されてゐると云ふことは、僕としてはやりきれないことだ。もし一切を書いて了へば、きつと、君が僕をゆるしてくれると僕は確心してゐる。その確心が、あつたればこそ、あの手紙を、僕は書く氣に前からなつてゐたのだ。しかし、書き乍らも、これではいけない、これでは是非一度は直ぐ爭ひが起る、とさう云ふ不安が絶えずあつた。が、その爭ひをも通過して了へば、一層よくなるにちがひない、とも思はれてゐた。確實な心理、正しい氣持ちを理解し合ふまでには、人は幾度も爭はなければならない。殊に、僕の性格から流れる心理を理解して貰ふには、それが甚だしく必要である、と云ふことを、過去の經驗から僕は云はねばならない。君とも度々さうであつたと記憶する。そして、その度に、それは、君の誤解からであると、知つてゐたので、僕の感情は、君の怒りにつれて、決して前進しなかつた。(尤も、絶えず、僕の心の表現の仕方が惡かつたと、僕自身思つてゐたせいもあるが。)
昨夜の手紙の中にでも、友達に對する僕の心理の説明の仕方などは、殊に僕としては云ひたりない。君の家へ行かないやうに心掛ける、と云つた僕の云ひ方でも、あれだけでは、きつと誤解されてゐるのにちがひない。なぜなら、バナナを昌子にやつたから、マサ子が疫痢になつたと、僕の葉書の書き方でそんな風に君にとられたのを思ひ出してさへ、殊にさう思ふ。君の家へ行かない、と云つた意味を、もう一度云つてみると、つまり、僕が行くと、行つたそのとき、君が困ると思ふのだ。僕の氣持ちを(何故に來たかと云ふ、氣持ちを)君が知つただけでさへ、そして、僕が君のその氣持ちを知つてゐると云ふ場合、…

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