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象を撃つ
ぞうをうつ
作品ID59517
原題SHOOTING AN ELEPHANT
著者オーウェル ジョージ
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2019-06-25 / 2019-11-22
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 下ビルマのモールメンにいた頃、私は大勢の人たちから憎まれていた――生涯でただ一度、憎悪に足るだけの要職に就くことになったわけだ。町の分署の警官だった私に、無目的で狭量な反欧州的感情はひどく辛かった。彼らに暴動を起こすまでの根性はなかったが、ヨーロッパ人女性が一人でバザールを通りがかろうものなら、たぶんドレスに蒟醤(*1)を噛んだ唾を吐きかけられることになっただろう。警官たる私は明白なターゲットで、やっても大丈夫そうな場合はいつでも苛められていた。はしっこいビルマ人がサッカー場で私を蹴躓かせ、審判(これもまたビルマ人)があらぬ方を見ていた時、群衆は胸糞悪い哄笑でこれを歓迎した。それが一度きりではなかったのだ。私の後を難の及ばぬ距離だけ離れて侮蔑のヤジが付きまとい、そこいら中にいる若者連の黄色い嘲り顔がいたく神経に障るようになった。中でも最悪だったのが仏教の若い僧たちだ。町にはそんなのが何千人もいて、何をしているかと言えばひたすら街角に立ってヨーロッパ人を虚仮にするだけだったのである。
 こういったこと全てが面倒で腹立たしかった。というのも、私はその時にはもう帝国主義は悪事であると認め、さっさと今の職場から足を洗って別のもっと真っ当な仕事につく肚を決めていたのだから。理論の上では――いうまでもなく内密にだが――私はビルマ人の味方なのであり、彼らの圧制者たる英国に反対していた。当時の職について言えば、多分ここで明言できる以上に憎んでいた。あんな商売をしていると、帝国の汚れ仕事を間近く見ることになる。悪臭芬芬たる未決檻中に身を屈める哀れな囚われ人たちだの、長期服役囚の怯えた灰色の顔だの、竹の棒で滅多打ちにされ痣だらけになった尻だの――いずれもが私に耐え難い罪の意識を押し付け憂鬱にさせた。だが私は全てを捉え損ねていた。私は若く、学がなく、自分の問題を誰にも言わずに考え抜かねばならなかった。この無言の行は東洋に住む英国人が一人残らず負うている制裁だ。また、大英帝国が滅びつつあるとも知らず、後釜を狙っている若い帝国どもに比べれば大英帝国の方がまだマシだという点に関してはいっそう無知だった。判っていることといえば、自らが仕えるかの帝国への憎悪と、私の職務を邪魔しようとする邪悪な小獣たちに対する憤怒との間で立ちすくんでいること、それだけだった。心の一部では英国政府によるインド統治は打破し難い虐政であり、平伏する人民の意志を in saecula saeculorum に圧壊する弾圧行為であると思っていた。同時に心の別の部分では、仏教の坊主どもの腸に銃剣をぶちこめるなら、世にこれほど愉快なこともあるまいと思っていた。これらの感覚は帝国主義がもたらす通常の副産物である。誰でもいいからインド在住英国人を非番の時につかまえて聞いてみたまえ。
 とある日生じた案件は遠回しながら啓発的…

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