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うまい商売
うまいしょうばい |
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作品ID | 59518 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリム童話集(1)」 偕成社文庫、偕成社 1980(昭和55)年6月 |
入力者 | sogo |
校正者 | チエコ |
公開 / 更新 | 2020-02-24 / 2023-09-06 |
長さの目安 | 約 11 ページ(500字/頁で計算) |
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あるお百姓さんが、牝牛を市場へ追っていって、七ターレルで売ってきました。かえり道に、池のはたをとおらなければなりませんでした。まだ池までこないうちに、もう遠くのほうから、カエルたちが「アク、アク、アク」と、ないているのがきこえてきました。
「まったく、うるさくがなりたてやあがる。」
と、お百姓さんはひとりごとをいいました。
「おらのもらった金は七だぞ。八じゃねえや。」
お百姓さんは水ぎわまできますと、カエルたちにむかって、
「てめえたちゃ、なんてばかだ! わからねえのかよ。七ターレルだぞ。八じゃねえんだ。」
と、どなりました。
それでも、カエルたちは、やっぱり「アク、アク、アク」と、なきつづけています。
「ようし、ほんとにしねえんなら、てめえたちの目のまえで勘定してみせてやらあな。」
こういって、お百姓さんはポケットから金をとりだして、二十四グロッシェンずつで一ターレルと、合計七ターレルをかぞえあげてみせました。
[#挿絵]
[#挿絵]
けれども、カエルたちは、そんな勘定にはおかまいなしに、またもや、「アク、アク、アク」と、なきたてました。
「ええい。」
と、お百姓さんはすっかり腹をたててどなりつけました。
「これでも気がすまねえんなら、てめえたちで勘定しろい。」
そして、カエルたちのいる水のなかへ、金をそっくりほうりこみました。お百姓さんはそのまま立っていました。カエルたちが勘定をすまして、金をかえしてくれるまで、待っているつもりだったのです。ところが、カエルたちはがんこで、ひっきりなしに、「アク、アク、アク」と、なきたてるばかりです。そして、金などはなげかえしてもくれませんでした。
お百姓さんはなおしばらく待っていましたが、そのうちに日がくれてきましたので、うちへかえらなければならなくなりました。そこで、カエルたちを口ぎたなくののしって、どなりました。
「やい、やい、水んなかのバチャバチャ野郎の、でか頭の、ぐりぐり目玉め。てめえたちゃ、ばかでっかい口をしてやがって、耳もいたくなるほどギャア、ギャア大さわぎしゃあがるくせして、七ターレルの勘定もできねえじゃねえか。てめえたちの勘定がすむまで、おらがここで待ってるとでも思ってんのか。」
こういいすてて、お百姓さんは歩きはじめました。しかし、カエルたちは、あいかわらずそのうしろから、「アク、アク、アク」と、ないていました。で、お百姓さんはぷんぷん腹をたてて、うちへかえりました。
それからしばらくして、お百姓さんはまた牝牛を一頭買いました。お百姓さんはそいつを殺して、さて、どのくらいになるだろうかと、胸で計算をしてみました。肉をうまく売れば、牝牛二頭ぶんぐらいの金にはなるでしょうし、それにまだ皮ものこるというものです。そこで、お百姓さんは肉をかついで町へでかけました。町の門のまえまできますと、犬…