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マリアの子ども
マリアのこども |
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作品ID | 59522 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリム童話集(1)」 偕成社文庫、偕成社 1980(昭和55)年6月 |
入力者 | sogo |
校正者 | チエコ |
公開 / 更新 | 2019-09-20 / 2019-08-30 |
長さの目安 | 約 13 ページ(500字/頁で計算) |
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ある大きな森のまえに、ひとりの木こりが、おかみさんといっしょに住んでいました。子どもは、三つになる女の子がたったひとりしかありませんでした。
木こり夫婦はたいへん貧乏で、その日その日のパンもなく、子どもになにを食べさせたらよいか、とほうにくれるほどでした。
ある朝、木こりは心配ごとに胸をいためながら、森へしごとにでかけました。木こりが森のなかで木を切っていますと、ふいに、背の高い美しい女の人が目のまえにあらわれました。みれば、女の人はぴかぴかかがやく星のかんむりを頭にいただいています。女の人は、木こりにむかっていいました。
「あたしは聖母マリア、幼子キリストの母です。おまえは貧乏で、その日のものにもこまっていますね。あたしのところへおまえの子どもをつれていらっしゃい。あたしがその子をつれていって、めんどうをみてあげましょう。」
木こりはいわれたとおり、子どもをつれてきて、聖母マリアにわたしました。マリアはその子をつれて、天国にのぼっていきました。子どもはたいへんしあわせでした。さとうのはいったパンを食べたり、あまいミルクをのんだりしました。そして、金の着物をきて、かわいい天使たちといっしょにあそびました。
やがて、この子が十四になったときのことです。ある日、聖母マリアがこの子をよびよせて、いいました。
「あのね、あたしはこれから長い旅にでます。それで、おまえにこの天国の十三の扉のかぎをあずけておきます。このうちの十二の扉はあけて、なかにあるりっぱなものを見てもいいんですよ。でも、十三ばんめの扉は、この小さなかぎで、あくことはあきますけど、でもあけてはいけません。ようく注意して、あけないようにするんですよ。さもないと、おまえはふしあわせになりますからね。」
女の子は、きっといいつけをまもります、と約束しました。
やがて、聖母マリアが旅にでてしまいますと、女の子は天国の住まいの見物をはじめました。まい日ひとつずつ扉をあけているうちに、いつのまにか、十二ばんめの住まいまですっかり見てしまいました。
どの住まいにも(1)使徒がひとりずついて、大きなみ光につつまれていました。女の子は、ひかりかがやくあたりのすばらしいようすを見て、大よろこびでした。かわいい天使たちも、いつも女の子のあとについていって、女の子といっしょに、うれしがっていました。
こうして、あとには、いよいよ、あけてはいけないといわれている扉が、ひとつのこっているだけになりました。女の子は、そこになにがかくされているのか、知りたくてなりません。それで、小さい天使たちにむかっていいました。
「あたし、みんなはあけないし、それに、なかへはいったりもしないわ。ただ、そっとあけて、ちょっとすきまからのぞいてみたいの。」
「まあ、いけないわ。」
と、小さな天使たちはいいました。
「それはよくないこ…