えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
かわいそうな粉ひきの若いものと小猫
かわいそうなこなひきのわかいものとこねこ |
|
作品ID | 59536 |
---|---|
著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 金田 鬼一 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「完訳 グリム童話集(三)〔全五冊〕」 岩波文庫、岩波書店 1979(昭和54)年9月17日 |
入力者 | かな とよみ |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2019-11-01 / 2022-03-06 |
長さの目安 | 約 9 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
ある水車ごや(1)に、粉ひきのおじいさんが住んでいました。おじいさんのとこには、おかみさんもいず、子どももなく、若いものが三人奉公しているだけでした。この三人がここになん年かいてからのこと、ある日、おじいさんが若いものに、
「わたしも、としをとってな、ストーブのうしろへすわりたくなったよ。おまえがた、旅にでなさい。それでな、そのみやげにいちばんいい馬をもってきたものに、この粉ひき所をあげる。そのかわり、この小屋をもろうたものは、わたしを、死ぬまでやしのうてくれるのだぞ」といいました。
ところが、この若い者のうちで三番めのは下っぱのおいまわしで、あとの二人からは、わからずや扱いにされていて、これに粉ひきごやをせしめられるのは、ふたりとも感心しません。もっとも、この男のほうでも、べつに小屋をほしいともおもっていないのです。
とにかく、三人そろって旅に出たものですが、村をではずれると、兄弟子ふたりは、わからずやのハンスに、
「おまえは、ここにいるほうがよかろ。おまえなんざ、一生かかったって、駄馬一つ手にはいりゃしないよ」と言いました。そう言われても、ハンスはくっついて行きました。夜になって、三人は洞穴にたどりついたので、そのなかへはいって、ごろ寝をしました。
ちえのある二人は、ハンスがしょうたいなくねこむのを待って、自分たちだけ上へあがると、ハンスをおいてきぼりにして、どこかへ行ってしまいました。これで、二人はうまくしてやったと思ったのですが、だめ、だめ、そううまくいくわけのものではありません。
お日さまがのぼって、目をさましてみると、ハンスはどこかの深い洞あなの中にころがっていました。ハンスは、そこいらじゅうきょろきょろ見まわして、
「こりゃあ、よわった! どこにいるだあ」
と、大きな声をしました。それから起きあがると、手足をちょこまか動かしながら洞穴をはいあがって、森へはいって考えました、「おれときたら、こんなとこでほんとうの独りぼっち、だれにも相手にされやしない、どうしたら馬が手にはいるのやら」
こう考えこんでとぼとぼ歩いているところへであったのは、小さな三毛猫です。三毛猫は、いかにもわけへだてなく、
「ハンスさん、どこへ行くのよう」と、声をかけました。
「なあんだ! 話したって、おまえさんにゃどうもできやしないや」
「おじさんのおのぞみがどんなことだぐらい、ちゃんとわかってますよ」と、小猫が言いました、「おじさんは、いい馬が一頭ほしいのね。あたしについてらっしゃい、そうして、あたしのめしつかいになって、七年だけ、かげ日なたなく働きなさい、そうしたら、馬を一頭あげることよ、おじさんが、生まれてから一度も見たことのないような、りっぱなのをね」
「はぁてな、きみょうな猫だぞ」と、ハンスが考えました、「だが、ひとつためしてみるかな、こいつの言うことがほ…