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Schreibe wie du sprichst
シュライベ ヴィー ドゥ シュプリヒシュト |
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作品ID | 59570 |
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著者 | 中谷 宇吉郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「中谷宇吉郎随筆選集第一巻」 朝日新聞社 1966(昭和41)年6月20日 |
入力者 | 砂場清隆 |
校正者 | きゅうり |
公開 / 更新 | 2021-07-26 / 2021-07-08 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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いつか小宮さんと同車した時、科学者などいわゆる文章の素人の人が書いたものの中には非常に面白いものがあるから、何か書いてみてはどうかと勧められたことがある。その時レッシングがその姉に手紙をときどきくれと云ったら、その姉が私は教育を受けていないので碌な手紙は書けないからと云ったという話が出た。レッシングはその時、姉に Schreibe wie du sprichst.(口で云うように書きなさい)と云ったそうである。この話を特に小宮さんのような方からきくと、なる程文章は誰にでも書けるものであるという気がした。
この心得はその後始終守ることにしているが、文章の可否は別問題として、自分には大変気安くものが書けるようになった。もっとも実際にはこの心得をもっと引き下げて、「むずかしいところは一度口で云ってみてそのとおりに書く」というふうに変形して使うことにしているが、本当の素人にはその方がわかり易いようである。実は英文を書く時には前からこの心得を守っていたらしいということが後になって気が付いた。それはいつか大変云い廻しの難しいところがあって、其処を散々苦労して書きあげて英国人に見てもらったら、どうしても意味がわからぬと云う。それでその意味を説明したら、「それではなぜそのとおりに書かぬか」と云って、説明したとおりに書き直してくれたことがあった。それ以来英文を書く時には、いつもこの手を用いていたのであった。
心得などというものは、やはりちゃんとした「文句」にして覚えていなくては役に立たぬものらしい。
(昭和十一年十二月)