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王冠の重み
おうかんのおもみ
作品ID59605
原題THE WEIGHT OF THE CROWN
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1906年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2019-03-27 / 2019-11-22
長さの目安約 363 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

主な登場人物    備考
ジェシ・ハーコート 解雇された女
マダム・マルメゾン 婦人帽店の経営者
マザロフ大公妃   婦人帽店の上得意客
マザロフ王子    名前はボリス
ハーコート大佐   ジェシの父
アダ・ハーコート  ジェシの妹
ベラ・ギャロウェイ 外務大臣の姪
メリヘイブン令夫人 ベラの養母
メリヘイブン閣下  外務大臣
マクスウェル    ベラの恋人
ロナルド・ホープ  ジェシの旧友
アストリア女王   生まれは英国人
アストリア国王   名前はエアノ
マクスグラジャ   英国出身の軍人
バーニ医師     ベラの家族医
ポンゴ       ラッセルズ閣下
サーンス伯爵夫人  ロシアの美人スパイ
レックミア侍従   老外交官
ハント編集長    マーキュリー紙
エベリ編集長    デイリィヘラルド紙
グレイクスティーン ロシア代理大使
ペリトリ王子    アストリア王の又従兄
タスク警部     スコットランドヤード
ピエール・ロチ   フランス農民
ロスコ警部     侍従と旧知の警部

第一章 つてなし
 乙女はじっと立ちつくし、必死に涙をこらえた。衝撃があまりにも突然で、予想外だった。自尊心もズタズタだ。ジェシ・ハーコートが気を静めて尋ねた。
「奥さま、解雇ということでしょうか。週末に出て行けということでしょうか」
 小柄、色あせた金髪、質素な服を着た女店主が答えて言うことに、すぐに出て行きなさい。
 ボンド通りで高級婦人帽店を経営する女店主は、自らマダム・マルメゾンと称していたが、生粋のロンドンっ子だ。甲高い声がちょっと震えた。
「あなたはお店の面汚しです。せっかく雇ったのに残念ね。幸いにもマザロフ大公妃がじきじきに知らせてくだすった。あなたの行為は破廉恥で、言語道断です。大公妃のお宅へ帽子の試着に行かせたら、このざまだ。大公妃の息子のボリス王子と書斎でいちゃついているところを見つかって。ふしだらなことを。あなた自分からキスをせがんだでしょう。たったいま大公妃が来店され、この話をされたとき、私は……」
 ジェシが激しく反発した。
「嘘です。卑怯者の大ウソです。ロシアのゲス男がほんとの事をいうわけないでしょう。私が応接室で大公妃を待っていると、王子がはいって来たのです。黙って聞いてください。こうです」
 マルメゾン店主はジェシのものすごい剣幕に恐れをなした。ジェシの立ち姿は店員というより貴婦人然として、麗しい両目がメラメラと燃えながら、美しい顔立ちに一瞬憂いが走った。
 マルメゾン店主が常日頃ちょっと自慢にしていたのは、着付師としてのジェシの美貌や気品やかわいらしさだ。どうやらジェシは本当のことを言っているらしいと心底思った。ジェシがやや落ち着いてきた。
「わたくしはレディでいたいのです。少なくとも生れはそうだと思います。これから本当のことを…

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