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モンテーニュ随想録
モンテーニュずいそうろく
作品ID59608
副題07 随想録 第三巻
07 ずいそうろく だいさんかん
著者モンテーニュ ミシェル・エケム・ド
翻訳者関根 秀雄
文字遣い新字新仮名
底本 「モンテーニュ随想録」 国書刊行会
2014(平成26)年2月28日
入力者戸部松実
校正者大久保ゆう、雪森、富田晶子
公開 / 更新2020-02-28 / 2023-12-20
長さの目安約 871 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


 一五八八年の新版『随想録』の扉には、その標題の下に第三巻一冊と既刊二冊への増補六〇〇項が増加されたと印刷されているが、この書きおろしの第三巻は、結局、一五八二年版の余白に書き込まれた前記増補分の延長ないし溢流とも言うべきもので、そこに特に新しい提論はないようである。けれどもやはりそこには、進歩とか特徴とか言うべきものが確かに認められる。まったく著者モンテーニュは、今や紋章だの勲章だの、王室伺候だとか市長だとかいう肩書などを、いつの間にかきれいさっぱりと脱ぎ捨てて、フランスのジャンティヨムからソクラテス流の世界の市民になり変っている。一五八八年版の表紙には肩書きが取れてただモンターニュの領主と書かれている。そして彼はその書斎における読書執筆と彼のいわゆる夢想とをいよいよ自己の本領と自覚し、著作者エッセイストたることに徹している。従来はいささか消極的であった自己弁護も、今や全く積極的な自己表出となり、大胆に自己の根本思想を布衍し解明することに没頭している。その上さらに、自己を読者に知らせることから、読者をして読者自らを知らしめ、読者自らをして世界や宇宙に眼を注がしめることに、その重点を移してゆく。つまりモンテーニュの自己は、この時、彼自らにとっても読者にとっても、己れ自らと世界とを知らせる、いわば顕微鏡とも望遠鏡ともなる光学機械、モラリスト・エッセイストという彼の本職にとって最も大切な道具となるのである。三の六「馬車について」の章なり三の九「すべて空なること」の章なりは、いずれも一の二十三、二十七、三十一、二の二十二章の延長であるとしても、何とそれは堂々として確信に満ちていることであろう。こういうところに第三巻時代のモンテーニュの面影が見られる。


[#改ページ]

第一章 実利と誠実について


 この章以下の十三章は、全部『随想録』の一五八八年版に新たに加えられた部分であって、従来は、モンテーニュが四カ年にわたる市長職をおわって再びふるさとの城館に起きふしするようになった一五八五年の暮あたりから一五八八年の始めに至る間に、ほぼ継続して、大体配列されている順に書かれたもの(ヴィレの説)と信じられていたが、最近の研究によると(一九五三―五四年Revue d’Histoire Litt[#挿絵]raire誌所載 Roger Trinquet:Du nouveau dans la biographie de Montaigne参照)、これら十三章は、一五八五年六月から翌八六年の七月に至る間と、一五八七年二、三月頃から翌八八年の二月に至る間との、二つの時期にわかれて執筆されたことになり、その中間に約六、七カ月の中止期がある。モンテーニュがペストに追われて城館をあとに、家族を引き連れて諸所を放浪したのは、従来一五八五年秋冬の頃と推定されて…

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