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ならずもの
ならずもの |
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作品ID | 59636 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリム童話集(1)」 偕成社文庫、偕成社 1980(昭和55)年6月 |
入力者 | sogo |
校正者 | チエコ |
公開 / 更新 | 2020-01-04 / 2019-12-27 |
長さの目安 | 約 6 ページ(500字/頁で計算) |
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オンドリがメンドリにいいました。
「もうクルミがうれる時期になったよ。どうだい、いっしょに山へいって、思いきり食べてこようじゃないか。まごまごしていると、リスのやつにみんなもっていかれちまうからね。」
「けっこうね。」
と、メンドリがこたえました。
「いきましょうよ。ふたりでたのしんできましょうね。」
そこで、ふたりはいっしょに山へでかけました。とてもいいお天気でしたので、ふたりは夕がたまで山にいました。
ところがですよ、ふたりがあんまり腹いっぱい食べすぎたせいか、それとも、高慢ちきになってしまったためか、そのへんのところはよくわかりませんけど、とにかく、ふたりとも歩いてかえるのがいやになってしまったのです。
そこで、オンドリがクルミのからで小さな車をこしらえることになりました。車ができあがりますと、メンドリはそのなかにすわりこんで、オンドリにむかっていいました。
「おまえさん、車のまえにいって、馬がわりにひっぱったらどうなのよ。」
「ふん、ありがたいこった。」
と、オンドリがいいました。
「馬のかわりをするくらいなら、歩いてかえるほうがよっぽどいいや。いやなこった、それじゃ、まるで話がちがうもの。御者になって、御者台にすわるんならべつだけど、じぶんでひっぱるなんてのはごめんだぜ。」
こんなふうに、ふたりがいいあらそっているところへ、カモがガアガアなきながらやってきました。
「やい、どろぼうども。だれがきさまたちに、おれさまのクルミ山へはいれっていったんだ。待ってろ。いまひどいめにあわしてやるからな。」
こういうがはやいか、カモはくちばしを大きくあけて、オンドリにつっかかっていきました。けれども、オンドリもまけてはいません。すばやく、カモのからだの上にぐんとのしかかって、そのあげく、けづめでカモをむちゃくちゃにひっかいたものですから、とうとうカモもこうさんしてしまいました。ですから、その罰として、カモは車のまえにつながれて、車をひっぱることを承知させられました。
そこで、オンドリは御者台にすわって、御者になりすましました。さてそれから、オンドリはものすごいいきおいで、車をすっとばしていきました。
「カモ公、力いっぱい走るんだぞ。」
こうして、しばらく走っていきますと、歩いているふたりのものにであいました。それはとめ針とぬい針でした。ふたりは、
「待ってくれえ、待ってくれえ。」
と、どなりました。そして、
「もうすぐくらくなるだろう。そうすると、ぼくたちにはひと足も歩けないし、それに道もとってもきたないんだ。ほんのすみっこでけっこうだから、車にのせてはもらえないかい。じつは、ふたりとも町の門のまえの仕立屋の宿にいたんだけど、ビールをのんでいて、おそくなっちまったんだよ。」
と、いいました。
このやせこけたひとたちなら、たいして場所もとりません…