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手早い奴
てばやいやつ
作品ID59727
原題THE QUICK ONE
著者チェスタートン ギルバート・キース
翻訳者村崎 敏郎
文字遣い新字新仮名
底本 「〔ブラウン神父の醜聞〕」 HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS、早川書房
1957(昭和32)年3月15日
入力者時雨
校正者sogo
公開 / 更新2021-05-29 / 2021-04-27
長さの目安約 50 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 不調和な二人連れの不思議な男たちの不思議な話がいまだにサセックスのあのせまい海岸附近で語り伝えられている。この浜にはメイポール・アンド・ガーランドという、静かな大ホテルが庭から海を見晴らしている。おかしな組合せの二つの人影がその静かなホテルにほんとにはいつてきたのはあのよく晴れた日の午後であつた……一人は、褐色の顔と黒い顎ひげをかこむように、ツヤツヤした緑色のターバンを巻いていたので、日なたではひどく目立つて海岸一帯からよく見えた。もう一人は、ライオンみたいに長い黄色の口ひげと黄色の髪の毛をはやし、柔らかい真黒な牧師の帽子をかぶつていたので、いつそう気違いじみた不気味なようすだと思つた人もあるかもしれない。この男は少なくともたびたび姿を見せて、砂地でお説教をしたり、少年禁酒隊の礼拝を小さな木製のすきで指揮したりしていたことがあつた。ただホテルのバーにはいつてくる姿はたしかにいままでに一度も見せたことがなかつた。この変てこな二人連れの到着は物語のクライマックスであるが、そもそもの初めではない。そこで、かなり神秘的な物語をできるだけはつきりするために、初めからはじめるほうがよかろう。
 この二つの目立つた姿がホテルにはいつてみんなの目を引く半時間前に、別の二つのごく目立たない姿もホテルにはいつてきて、だれの目も引かないでいた。一人は大男で、堂々とした美男であつたが、いつもうしろへひつこんで場所ふさぎをしないコツを心得ていた。ただ病的なほど疑つてその靴を検査したら、この男が平服――それもごく質素な平服を着た警部だということはだれにもわかつたろう。もう一人はいつこうパッとしないつまらない小男で、これも質素な服を着ていたが、ただ偶然に坊さんの服装だつた。しかしこの男が砂地でお説教しているところはだれも見たことがなかつた。
 この二人の旅人もバーのある大きな喫煙室のような部屋にはいつてきたが、それにはこの悲劇的な午後のすべての事件の元になつた一つの理由があつた。実はこのメイポール・アンド・ガーランドという立派なホテルが修繕中だつたのである。昔のこのホテルを愛していた連中は、これでは改悪で、ことによるとメチャメチャになつてしまう、と言いたがつていた。これは土地の不平家ラグリー氏の意見で、この変り者の老紳士は片隅でチェリーブランデーを飲みながら罵倒していた。ともかく、一度はイギリスの宿屋らしかつたあちこちの特徴を注意深くすつかりはぎ取つて、一ヤードごとにまた部屋ごとに、アメリカ映画に出るユダヤ人の高利貸のまがいものの宮殿に似たような作りに大急ぎで改造されていた。早く言えば、それは「装飾中」であつたが、その装飾が完成してなじみの客がもうおちつけるようになつているのは、玄関のホールに続くこの大きな部屋だけであつた。ここは以前は立派にイギリス風の酒の部屋という名前で通つていたが…

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