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緑色の人
みどりいろのひと
作品ID59729
原題THE GREEN MAN
著者チェスタートン ギルバート・キース
翻訳者村崎 敏郎
文字遣い新字新仮名
底本 「〔ブラウン神父の醜聞〕」 HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS、早川書房
1957(昭和32)年3月15日
入力者時雨
校正者sogo
公開 / 更新2021-10-09 / 2021-09-27
長さの目安約 43 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 半ズボンの青年が、血色のいい熱心な横顔を見せながら、砂浜と海に平行したリンクで、独りゴルフを楽しんでいた。あたりは夕闇で灰色になりかけていた。青年はむぞうさにボールを打ちまくつているわけではなく、むしろ特殊のストロークを人目につかない激しさで練習しているのであつた……キチンと身ぎれいにした旋風という感じであつた。この青年はいろんなゲームを手早く習得していたが、ふつうより少しでも早く習得したい癖があつた。どうやらそのために、六回のレッスンでバイオリンを習得する法とか、通信教授で完全なフランス語の発音を身につけられる法とかいうたぐいの人目を引く広告の被害者になりがちであつた。彼はこういう希望に満ちた広告や冒険のいきいきした雰囲気の中で暮していた。目下は、このリンクと境を接している大庭園のうしろに大きな屋敷を持つている海軍提督マイクル・クレイブン卿の個人秘書であつた。なかなか大望があつたので、相手がだれであろうと個人秘書をいつまでも続けるつもりはなかつた。しかしまた理性的でもあつたので、秘書をやめる最上の方法は立派な秘書になることだと知つていた。したがつて彼は大へん立派な秘書であつた……提督の通信物がドンドン集まつてきてたまつたのを整理するのにも、ゴルフボールを相手にするときと同じようにすばやい一心不乱の精神集中法を用いていた。彼はいまのところひとりで適当に判断して通信物と取り組まなければならなかつた。というのは提督はこの六ヶ月来船に乗つていたからである。そして、もう帰途についていたが、まだ数時間のあいだは――あるいはことによると数日のあいだは――帰つてこないはずであつた。
 運動家らしい大またで、ハロルド・ハーカーという名のこの青年は、リンクの囲いになつている芝生の高台に登つた。そして砂浜の向こうの海を見わたすと、不思議な光景が見えた。あまりはつきり見えたわけではなかつた……というのは宵闇が荒れ模様の空の下で刻々と暗くなつていたからである……しかしそれは、瞬間的な幻影のようなものであつたためか、青年にとつては遠い昔の日の夢か、歴史の別の時代から出てきた幽霊が演じている芝居のような気がしたのであつた。
 落日の名残りが銅色と金色の細長い縞になつて、青というよりむしろ黒に近く見える海のはての暗い沖の上に、消え残つていた。しかし西空のこの輝きを背にしてひときわ黒く、影絵芝居の人影のようにクッキリ輪郭を浮きあがらせて通り過ぎたのは、かどが三つある三角帽をかぶり剣を着けた二人の男であつた……まるでたつたいまネルソンの木造艦隊から上陸してきたようなかつこうであつた。その姿は、たとえハーカー君にまぼろしを見る癖があつたとしても、夢にも思いつきそうもないまぼろしであつた。彼は血色がいいのと同じに科学的なタイプでもあつたので、もし空想するとすれば、昔の軍艦より未来の飛行船が目に…

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