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ブラウン神父の醜聞
ブラウンしんぷのしゅうぶん
作品ID59732
原題THE SCANDAL OF FATHER BROWN
著者チェスタートン ギルバート・キース
翻訳者村崎 敏郎
文字遣い新字新仮名
底本 「〔ブラウン神父の醜聞〕」 HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS、早川書房
1957(昭和32)年3月15日
入力者時雨
校正者sogo
公開 / 更新2021-05-29 / 2021-04-27
長さの目安約 38 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ブラウン神父の数々の冒険を記録しておきながら、この人が一度は重大な醜聞に巻きこまれたことがあるのを認めないでおくのは公平でなさそうだ。ブラウンの名前には汚点がついていると言う人が、おそらく坊さん自身のお仲間にさえ、いまだにあるくらいだからである。事が起つたのは、絵のように美しいメキシコの路傍にある、あとで明らかになるように、かなり評判の悪い旅館の中であつた。そして或る人々には、初めてこの坊さんが頭の奥のロマンチックな気分と人間らしい弱点に対する同情心に動かされてダラシのない不当な行動を取つたように見えたのであつた。話そのものは単純な話で、たぶん単純だからこそ驚くべき事だつたのであろう。
 トロイの落城の発端は美女ヘレンにあつた……この不面目な話の発端はハイペシア・ポターの美貌にあつた。アメリカ人には一つ偉大な力がある……ヨーロッパ人はかならずしもそれを高く買つていないが、それは名士を下から――つまり民衆がイニシアテイブを取つて作り出す力である。他のあらゆる長所と同じように、これにはいろいろ明るい面がある……その一つはウエルズ氏その他が注目したように、官公職の名士にならなくても天下の名士になれることである。すぐれた美しさや才気のある娘は、映画スターやギブスンガール(米国の美術家ギブスンの描いた、理想的なアメリカ女)の典型でなくても、一種の無冠の女王になれる。こうして運よく、または運悪く、広く世間に美人で通つている連中のなかに、ハイペシア・ハードという婦人がいたが、この婦人は田舎新聞の社交欄ではなやかなおせじを受ける準備時代を卒業して、現にほんとうの新聞記者にインタビューを求められる地位に達していた。戦争や平和や愛国心や禁酒法や進化論や聖書について彼女はチャーミングな微笑をうかべながら意見を発表した。こういう意見は彼女自身の声価のほんとうの根拠としては縁が遠そうであつたが、ではその声価の根拠はほんとのところ何かというと、やはりそれもはつきり決めにくかつた。美人で金持の娘だというだけなら、彼女の国アメリカでは珍しくないことである。しかしそれに加えて彼女はジャーナリズムのキョロキョロしている目を引きつけるだけのものを何でも持つていた。彼女の賛美者はほとんど一人も彼女に会つたことがなかつたし、特に会いたがつてもいなかつた。まして彼女の父親の財産からさもしい利益を引き出せるわけでもなかつた。これは単に一種の民衆のロマンス――神話にかわる現代の代用品であつた。それが最初の土台になつて、後に彼女がもつと大げさで猛烈なロマンスに登場することになつたのである。そしてこのロマンスでブラウン神父の評判が、ほかの関係者と同じにすつかり地に落ちてしまつたのだと考える者が多かつた。
 アメリカ式の皮肉な表現で「すすり泣く女たち」(センチメンタルな婦人記者のことを言う)と呼ばれている連中…

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