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いさましい ちびの仕立屋さん
いさましい ちびのしたてやさん |
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作品ID | 59742 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリム童話集(1)」 偕成社文庫、偕成社 1980(昭和55)年6月 |
入力者 | sogo |
校正者 | チエコ |
公開 / 更新 | 2020-01-04 / 2019-12-28 |
長さの目安 | 約 23 ページ(500字/頁で計算) |
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ある夏の朝のことです。ちびの仕立屋さんが窓ぎわの仕立台にむかって、いいごきげんで、いっしょうけんめい、ぬいものをしていました。
すると、ひとりのお百姓さんのおかみさんが通りをやってきて、
「じょうとうのジャムはどうかね、じょうとうのジャムはどうかね。」
と、よばわりました。
この声が、ちびの仕立屋さんの耳に、いかにも気持ちよくひびいたのです。それで、仕立屋さんは小さな頭を窓からつきだして、よびとめました。
「ここへあがってきてくれよ、おかみさん、その荷がからになるぜ。」
おかみさんはおもいかごをかかえて、階段を三つあがって、仕立屋さんのところへきました。そして、いわれるままに、ジャムのつぼをのこらずあけてみせました。仕立屋さんはそのつぼをみんなしらべて、いちいちもちあげては、鼻をくっつけてみました。そのあげくのはてに、こういいました。
「よさそうなジャムだね、おかみさん。四ロート(一ポンドの約三十分の一)ばかりはかっておくれ。なに、四分の一ポンドぐらいあったってかまやしないよ。」
たくさん買ってもらえるとばかり思っていたおかみさんは、仕立屋さんのくれというだけをはかってわたしましたが、ぷんぷんおこって、ぶつぶついいながらいってしまいました。
「このジャムは、神さまがおれにめぐんでくださったんだ。」
と、仕立屋さんは大きな声でいいました。
「これで強い力をさずけてくださるんだ。」
仕立屋さんは戸だなからパンをだしてきて、大きなパンのかたまりからひときれ切りとって、その上にジャムをぬりつけました。
「こいつはにがくはないだろう。だが、食べるまえに、このジャケツをしあげちまおう。」
と、仕立屋さんはいいました。
そこで、仕立屋さんはパンをじぶんのわきにおいて、またぬいはじめました。けれども、うれしいものですから、つい、ぬいかたがだんだんあらくなってきました。
そのうちに、ジャムのあまいにおいが、ハエのたくさんとまっている壁をつたっていきました。ハエはにおいにさそわれて、パンの上にいっぱいあつまってきました。
「やい、やい、だれがきさまたちにきてくれっていった。」
仕立屋さんはこういって、よびもしないのにやってきたお客さんたちを追っぱらいました。けれども、ハエたちには、ドイツ語なんかわかりません。ですから、追いはらわれるどころか、だんだんになかまの数をふやしては、なんどもなんどももどってくるのでした。
こうしているうちに、とうとう、仕立屋さんのかんしゃくだまが爆発しました。仕立屋さんは仕立台の穴から布きれをつかみだして、
「待ってろ、こいつをくれてやる。」
と、さけぶがはやいか、そのきれで思いきってハエをたたきました。
仕立屋さんがきれをとってかぞえてみますと、ちょうど七ひきのハエが目のまえに死んで、手足をのばしています。
「なんて弱虫なんだ。…