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![]() さんまいのヘビのは |
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作品ID | 59743 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリム童話集(1)」 偕成社文庫、偕成社 1980(昭和55)年6月 |
入力者 | sogo |
校正者 | チエコ |
公開 / 更新 | 2020-07-20 / 2020-06-27 |
長さの目安 | 約 10 ページ(500字/頁で計算) |
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むかしむかし、ひとりのまずしい男がおりました。その男は、じぶんのたったひとりのむすこさえも、やしなえないようになってしまいました。そこで、むすこがいいました。
「おとうさん、だいぶくらしもくるしくなってきましたね。わたしはおとうさんの重荷になるばかりです。いっそ、家をでて、じぶんでなんとかしてパンをかせぐようにしたいと思います。」
そこで、おとうさんはむすこのしあわせをいのって、胸のつぶれるようなかなしい思いで、むすことわかれました。
ちょうどそのころ、ある強い国の王さまが戦争をはじめました。若者はこの王さまにつかえて、戦場にでかけました。若者が敵のまえまできたとき、ちょうどたたかいがはじまりました。そのあぶないことといったらありません。鉄砲のたまが、豆のようにバラバラふってきて、味方のものはあっちでもこっちでも、ばったばったとたおれるありさまです。そのうちに、隊長までも戦死してしまいました。ですから、のこったものたちはあわててにげだしました。そのとき、若者がすすみでて、みんなに勇気をつけて、大声によばわりました。
「おれたちの生まれた国をほろぼすな。」
それをきいて、ほかのものたちも若者のあとにしたがいました。若者は敵のなかにとびこんで、さんざんに敵をやっつけました。王さまは、たたかいに勝つことができたのはこの若者ひとりのおかげだったときいて、若者をだれよりもとりたてて、たくさんの宝ものをあたえたうえ、国いちばんの家来にしました。
王さまには、ひとりのお姫さまがありました。お姫さまはたいへん美しいかたでしたが、ただ、ひどくかわっていました。なにしろ、このお姫さまが結婚しようと思う相手の人は、もしもお姫さまがさきに死んだばあい、お姫さまといっしょに生きうめにされてもかまわないと約束できる人でなければだめだという、かたい誓いをたてていたのですからね。
「あたしを心のそこからすいているのなら、あたしが死んだのち、どうして命がいりましょう。」
と、お姫さまはいうのでした。
そのかわり、お姫さまもおんなじことをするつもりでした。つまり、もしご主人のほうがさきに死ねば、お姫さまもいっしょにお墓のなかへはいる気でいたのです。いままでのところは、このかわった誓いをききますと、お姫さまに結婚をもうしこもうと思っていた人も、みんなおそれをなしてしまうのでした。
ところがこの若者は、お姫さまの美しさにすっかり心をうばわれてしまって、ほかのことはなんにも考えず、お姫さまをいただきたい、と、王さまのもとにねがいでました。
「おまえは約束しなければならぬことがあるのだが、それも知っているのかね。」
と、王さまがたずねました。
「もしもわたくしがお姫さまよりあとまで生きておりましたら、お姫さまといっしょに墓のなかへはいらなければなりません。」
と、若者はこたえていいました…