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白ヘビ
しろヘビ |
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作品ID | 59744 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリム童話集(1)」 偕成社文庫、偕成社 1980(昭和55)年6月 |
入力者 | sogo |
校正者 | チエコ |
公開 / 更新 | 2020-08-14 / 2023-09-06 |
長さの目安 | 約 11 ページ(500字/頁で計算) |
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いまからずっと、むかしのこと、あるところにひとりの王さまが住んでおりました。その王さまのかしこいことは、国じゅうに知れわたっていました。とにかく、王さまの知らないことは、なにひとつないのです。どんなにないしょのことでも、空をつたわって、王さまのもとに知れるのではないかと思われるほどだったのです。
ところで、王さまにはかわった習慣がひとつありました。それは、まい日お昼の食事がすんでからのことでした。食事のおさらがすっかりさげられて、その場にだれもいなくなりますと、ひとりの信用のあつい召使いが、いつもきまって、なにかもうひとさらもってくることになっていたのです。けれども、それにはふたがしてありますので、その召使いでさえも、おさらのなかになにがはいっているのか知りませんでした。それに、王さまはひとりきりにならないうちは、けっしてふたをあけて、食べようとはしませんので、だれひとりその中身を知っているものはありませんでした。
こうしたことが、長いあいだつづきました。ある日のこと、おさらをさげた召使いが、どうにも中身を知りたくなって、そのままそのおさらをじぶんのへやにもっていきました。召使いは扉を注意ぶかくしめてから、ふたをとってみました。と、なかには一ぴきの白ヘビがはいっています。召使いはそれをひと目見ますと、どうしても食べてみたくなりました。そこで、白ヘビをほんのすこし切って、口にいれました。
ところが、どうでしょう、それが舌にさわったとたん、窓のそとから、やさしい声で、ふしぎな、ひそひそ話をしているのがきこえてきたではありませんか。そばへいって、耳をすましてみますと、それはスズメたちがあつまって、野原や森で見てきたさまざまのことを、たがいに話しあっているのでした。つまり、この召使いはヘビを食べたおかげで、動物たちのことばがわかるようになったのです。
さて、ちょうどこの日に、お妃さまのいちばん美しい指輪がなくなりました。ところでこの召使いは、どこへでも出入りをゆるされていましたので、この男がぬすんだのではないかといううたがいがかけられました。
王さまは召使いをよびだして、きびしくしかりつけました。そして、もしあしたまでに犯人の名をいうことができなければ、おまえを犯人と考えて罰するぞ、と、おどかしました。召使いが、じぶんに罪のないことをいくらもうしたてても、どうにもなりませんでした。召使いは、しかたなくそのままひきさがりました。
召使いは、不安と心配で胸をいためながら、中庭におりて、どうしてこの災難をのがれたものだろうかと、いっしょうけんめい考えていました。そのとき、ふと見ますと、そばの小川の岸にカモたちがのんびりならんで、やすんでいました。カモたちは、くちばしで羽根をきれいにそろえながら、うちとけた話をしていました。
召使いは立ちどまって、その話にじ…