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漁師とそのおかみさんの話
りょうしとそのおかみさんのはなし
作品ID59746
著者グリム ヴィルヘルム・カール / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール
翻訳者矢崎 源九郎
文字遣い新字新仮名
底本 「グリム童話集(1)」 偕成社文庫、偕成社
1980(昭和55)年6月
入力者sogo
校正者チエコ
公開 / 更新2020-11-20 / 2023-09-06
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 むかしむかし、ひとりの漁師とそのおかみさんがおりました。ふたりは、海のすぐそばの小屋に住んでいました。漁師はまい日魚つりにでかけました。あけてもくれても、魚つりばかりしていました。
 あるとき、漁師はつりざおのそばにすわって、きらきらかがやく水のなかをじっとのぞきこんでいました。漁師は、いつまでもすわったきりでした。
 と、とつぜん、つり糸が水底ふかくぐんぐんしずんでいきました。漁師がさおをあげてみますと、大きなヒラメがかかっていました。すると、そのヒラメが漁師にむかっていいました。
「ねえ、漁師さん、おねがいだから、わたしを生かしておいてください。わたしは、ほんとうはヒラメではなくって、魔法をかけられている王子なんです。あなたがわたしを殺したところで、なんの役にたちましょう。食べてもおいしくはありませんよ。どうかもういちどわたしを水のなかにいれて、にがしてください。」
「よしよし。」
と、漁師はいいました。
「そんなにいろいろいいたてなくてもいい。口のきけるヒラメなら、にがさずにおくもんかい。」
 こういって、漁師はきらきらかがやいている水のなかへ、もういちど魚をはなしてやりました。ヒラメは水底へもぐっていきましたが、あとへ長い血のすじをのこしていきました。そこで、漁師は立ちあがって、おかみさんのいる小屋にかえっていきました。
「おまえさん、きょうはなんにもとれなかったのかい。」
と、おかみさんがたずねました。
「うん、なんにもだ。」
と、漁師はいいました。
「ヒラメを一ぴきとりはしたがな、そいつが魔法をかけられた王子だっていうもんだから、またにがしてやっちまった。」
「で、おまえさん、そいつになんにもたのまなかったの。」
と、おかみさんがたずねました。
「そうよ。」
と、漁師はいいました。
「いったい、なにをたのもうっていうんだい。」
「あきれたねえ。」
と、おかみさんがいいました。
「こんな小屋にいつまでも住んでるなんて、いやんなっちゃうよ。このなかはくさくって、胸がむかむかするじゃないの。小さなうちをひとつほしいっていやあよかったのに。もういっぺんいって、そのヒラメをよびだしてさ、わたしたちゃ小さなうちがほしいっていってごらんよ。きっと、くれるから。」
「それにしてもなあ――」
と、漁師はいいました。
「なんだって、もういっぺんいくんだい。」
「だってさ、おまえさん、そいつをつかまえて、またにがしてやったんだろ。だから、きっと、なんとかしてくれるさ。すぐいっといでよ。」
[#挿絵]
 漁師は、それでもまだ気がすすみませんでしたが、おかみさんに反対しようとも思いませんので、海へでかけていきました。さっきのところへきてみますと、海はすっかりみどり色と黄色になっていて、もうきらきらひかってはいませんでした。
 漁師は海べに立って、こういいました。
小人さ…

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