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くちなしの花
くちなしのはな
作品ID59759
原題THE SLAVE OF SILENCE
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1906年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2019-04-26 / 2019-11-22
長さの目安約 336 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

主な登場人物   備考
ビートリス    姓はデアル、二十二歳
ボン奴隷     メアリ・グレイ
チャールズ卿   ビートリスの父
リッチフォード  ビートリスの結婚相手
マーク      ビートリスの恋人
ベリントン大佐  東洋派遣の英国軍人
ラッシュブロウ  領主、デアル家の家長
令夫人      領主夫人、名はアデラ
サトーリス    カール・グレイ
デラモリ伯爵夫人 コーラ
ガスタング大将  レギー
フィールド警部補 警視庁所属
アバッド藩王   英印混血の印度藩王
ランフォード   警部補の名
ベンウッド    東洋に詳しい元軍医
バイオレット   アデラ・ベーン
フレミング    弁護士
アクトン     代書屋

第一章
 娘は豪華な部屋に背を向け、うずく頭を冷たい窓ガラスに押し付けた。下の通りをちらっと見れば、二輪馬車が駆け抜け、中でかわいい女が笑い、傍らに男が乗っている。
 ここロイヤルパレスホテルの別室からは浮き浮き、華やかなさんざめきが聞こえる。世間は皆、幸せそうだが、今夜はおそらく、窓ガラスに額を押し付けた惨めな娘をあざ笑っているだろう。
 どうやら、ビートリス・デアルの親族が、この華やかなホテルへ集まったようだ。娘は若く、健康で、友人から見ても美人だ。
 でも、驚くほど青白い顔色は、真っ黒いドレスと強烈な対照をなし、そのドレスから真っ白な腕と首がすっと伸びるさまは、浅黒い地肌から突き出た象牙のようだった。色ものは何もつけておらず、ただ髪の毛が程よい赤色、瞳が深い青色で、じっと窓を見つめている。
 顔は青白く、投げやりのようだが、よもや招待客に冷たい印象を与えるようなことはしないだろうけど、二十二歳という若さの割に、人生に不満を持ち、へとへとに疲れ切っていた。
 うしろにテーブルがおかれ、大勢の招待客に夕食をふるまう。すべてが完璧で、大金をかけ、まことにロイヤルパレスホテルにふさわしい。同ホテルのボーイ長は億万長者以外、へりくだって頭など下げない。
 テーブル飾りは赤に統一され、食卓電灯の笠も赤、至る所に赤いカーネーションが置いてある。趣向と、それに伴う出費はケチらなかった。
 というのも、ビートリス・デアルがあした結婚するからだ。父のチャールズ卿がこの機会をたたえ、夕食を提供する。大金持ちしか、こんな豪勢なもてなしはできない。給仕が丁寧に尋ねた。
「お嬢様、完璧だと存じますが、何かございましたら……」
 ビートリスがもの憂げに窓から振り返った。一瞬ふけて妙にやつれて見えた。それでも無理に笑顔を作り、赤い唇が少し開き、両まなこを、趣味のいいバカ高いこしらえに泳がせた。
「とてもすてきですよ。ええ、すべてそうです。すばらしいお仕事をなさいました。これ以上の満足はありません」
 給仕はちょっといぶかったが、お辞儀して喜んで退出した。ビート…

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