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作品ID59761
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆選集第三巻」 朝日新聞社
1966(昭和41)年10月20日
初出「日本経済新聞」1956(昭和31)年5月~11月
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2022-01-09 / 2021-12-27
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

重力を絶ち切る話

 このごろ、あまり意外なことが、つぎつぎと出て来るので、たいていのことには、そう驚かなくなった。ところが、最近全く奇想天外な話をきいて、大いに度胆を抜かれた。それは重力を絶ち切る研究の話である。
 宇宙旅行は、目下、世界的なブームであるが、現実味が少しでもある話は、皆ロケット、あるいは類似のものである。
 しかしロケットでは、もう古くなったので、空想小説や、いわゆる科学空想映画では、重力を絶ち切る装置を造って、それで自由に空間を飛翔する話が、ちょいちょい出て来ている。
 話としてはちょっとおもしろいが、これはもちろん架空の話で、重力を絶ち切るなどということは、現代の物理学では、夢にも考えられないことである。それで「宇宙征服」流のこの種の映画に対しては、科学関係の人間は、単におもしろがって、笑ってすませて来たわけである。私なども、もちろんその一人で、その可能性如何についてすら、考えてもみなかった。
 ところが、アメリカでは、大真面目になって、この研究をやっている科学者がいることを、最近知って、大いに驚いた。グレン・マーチンというアメリカ屈指の大航空機会社が、マリランドの大学へ、この委託研究を出している、という話なのである。
 もちろん「重力を絶ち切る研究」という題目ではない。目的は、アインシュタインの統一場理論に実験的指示を与えるような現象を探すということになっている。
 アインシュタインは、二つの大きい理論を出しているので、その一つは、有名な相対性原理である。この方は、あまりにも有名になっているが、この理論を出してから、二十年近く、アインシュタインは、沈黙を守っていた。そして突如として、第二の理論、すなわち統一場の理論を発表したのである。たしか一九三〇年ごろのことである。
 相対性理論の一つの大きい収穫は、物質とエネルギーとの転換であって、それが原子力の解放をうながした。ところが、そのほかにいま一つの大きい収穫があって、それは、重力を空間のゆがみとして説明したことである。
 ところで、電気と磁気の方は、ファラデーとマックスウェルとによって、空間のゆがみであることが明らかにされ、それが電波の存在によって、実証された。今日のラジオもテレビも、みなその基礎はここにある。
 ところで、電磁気も重力も、ともに空間のゆがみとすると、この両者を統一した場の理論があってもよいわけで、それが統一場の理論なのである。
 アインシュタインは、その理論を作り上げたが、それは単に数式の上での話で、実験的には、その根拠がまだ確かめられていない。それで、もしそれを実験的に支持する現象が発見されたら、重力にも人間が手をつけることができ、やがては、重力を絶ち切る方法も見つかるのではないかという話なのである。

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