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映画『人類の歴史』
えいが『じんるいのれきし』
作品ID59763
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆選集第三巻」 朝日新聞社
1966(昭和41)年10月20日
初出「心」平凡社、1954(昭和29)年5月
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2021-12-18 / 2021-12-18
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 前から私は、妙な夢を一つもっている。それは『人類の歴史』という映画を作ってみたいというのである。甚だ唐突な話で、そんなことをいっても、何のことか全然見当がつかないかもしれないが、本人はかなりまじめなつもりなのである。
『人類の歴史』などというと、昔帝劇で十円の入場料をとって見せた『イントレランス』を連想されるかたがあるかもしれない。旧い話で、活動写真館といえば、二十銭くらいの入場料が相場だった頃のことで、この十円は大いに世人の度胆を抜いたものである。
 内容はすっかり忘れたが、なんでも古代、中世、現代と、三つの話の三部作になっていた。そして寛容の心のないことが、人類の悲劇の源であり、それは文明が進歩しても変らないというようなことを、テーマにしたものであった。今から考えてみれば、他愛のないものであるが、古代のところで、何千人という武装兵士が出てくるというのが、呼びものになっていた。たしかトロイの陥落だったかと思うが、当時としては初めての大スペクタクル映画で、大いに評判になったものである。それに、文明が進歩しても、人間は変らないというようなさわりが、当時の文学青年たちにはちょうど手頃であったらしい。それで大いに人気が出た訳である。
 その後ストリンドベリイの『歴史の縮図』を読んだ時に、これを映画にしたら、さぞ美しい夢幻的な映画が出来るだろうと、空想してみたことがある。とくに古代のエジプトやギリシャのところに、ひどく幻想的な場面が沢山あった。ああいうのをうまく映画化することができ、それを現代まで調子を落さずにもってくることができれば、立派な『人類の歴史』の映画が出来上がるであろう。
 しかし私が今ここで言いだした『人類の歴史』は、こういう種類の芸術的な映画ではない。ひどく殺風景なもので、初めから終りまで、世界地図が画面に出てくるだけのものである。すなわち線画だけで出来る映画で、金も仕掛けもそうかからない。もっとも着色にする必要はあるので、その点現在の日本では、まだ少し無理かもしれない。
 この映画の目的は、過去から現在にわたって、世界中のすべての国あるいは民族の消長を、地図の上で、時間的の変化として見せようというのである。まず各国をそれぞれ色わけして、地図の上に塗ることにする。原則的には、四色あれば、どんなに国境が複雑に入り乱れていても、隣り合う国を別の色にすることができるので、四色あればすむわけである。しかし一つおいた別の国が同じ色になったり、いったん消滅した国と同じ色の国が、すぐひき続いて出てきたりすると、まぎらわしいので、なるべく沢山の色を使った方がよいことは、もちろんである。
 現在の天然色またはテクニカラーの技術をもってすれば、三十色や四十色の容易に識別し得る色を出すことは、何も問題ではないであろう。もちろん濃淡を入れての話である。それで世界中の主な国…

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