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救国論
きゅうこくろん
作品ID59772
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆選集第三巻」 朝日新聞社
1966(昭和41)年10月20日
初出「西日本新聞」1955(昭和30)年7月
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2021-06-13 / 2021-05-27
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 現在の日本は、どうひいき目にみても、安定した国の姿ではない。米ソ両陣営の谷間にもがいているというのは、少し極端であるが、その傾きがなくもない。問題は、今の四つの島からの生産では、九千万人に近い人間が生きて行くのに必要な物資が、生産されないという点にある。
 その一番わかり易い例が、食糧である。今年は例外であるが、平年では、少なくも一千万石の米に相当する食糧が足りない。その食糧、あるいはそれを輸入する外貨を、外国の援助によって得ているうちは、実質的の独立は出来ない。すべての悩みの根元は、ここにある。
 それで何か全部の日本人が、外国の助けを借りないで、腹いっぱいに「白米」が食えるような方法が見つかれば、それが現時における最善の救国論になるわけである。「白米」というのは、われわれ日本人が最も喜ぶ主食という意味である。
 政府の方でも、もちろんこの点は充分に考えて、米の一割増産とか、土地改良とか、いろいろな施策を講じておられる。しかしそのほかに、現在考慮を払われていない妙案が一つある。それは日本酒を輸出するという案である。
 これには、二つの資料があって、その一つは、米国の米の生産が、近年急激に増して来て、それが日本の一等米、或いはそれ以上の品質になっている、という点である。近年米国南部および加州の一部では、水田米作が普及してきて、肥後の寿司米のような米が、どんどん出て来ている。亜熱帯の気候で、水田米作には絶好の地理的条件にあるので、別に不思議なことではない。土地はまだまだ充分にあるので、需要さえあれば、米はまだいくらでも出来る。
 いま一つの資料は、米国人が、日本酒を案外に好むという点である。いつかワシントンで、もと司令部にいた人のところを訪れたら、日本酒を出された。誰かに貰ったのかときいたら、「ワシントンの酒店で、日本酒を売ってない店は一軒もないよ」という返事であった。
 事実、シカゴでも、パーティに人をよんで、日本酒、ウイスキー、カクテルと揃えておくと、十人中九人まで日本酒を所望する。初めは好奇心であるが、飲んでみて、誰も彼も、非常に美味いと感心する。まんざらのお世辞でもなさそうである。
 それで一つ妙案が浮んだわけであるが、日本酒をアメリカに宣伝して、大いに売り込む。そして代金を米で貰うことにしたら、恐らく、アメリカに輸出する日本酒のために潰す米の、少なくも三倍の米が、日本へはいって来ることになるであろう。
 これは半分冗談であるが、現在のイギリスで、最重要輸出品の一つが、ウイスキーであることは、知っておく必要がある。



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