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霧を捕える話
きりをとらえるはなし
作品ID59773
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆選集第三巻」 朝日新聞社
1966(昭和41)年10月20日
初出「西日本新聞」1955(昭和30)年9月
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2021-11-21 / 2021-10-27
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 ハワイに現在三つの産業がある。甘蔗と、パイナップルと、観光事業とである。
 ところで、近年のハワイの発展ぶりは、大いに目覚ましいが、すぐ困って来るのは、土地の問題である。何といっても、小さい島のことであるから、農地が住宅地に食われると、新しい農地を探さねばならないが、可耕農地はほとんど使いつくされている。其処で目をつけたのは火口内の台地である。
 ハワイ群島は火山で出来たもので、どの島にも、大きい火山がある。そのうち二つを除いては、とっくに死火山になっているので、其処には、非常に広い火口が残されている。この台地をパイナップル畑として開墾することは、大分前から着手され、現在では、もうほとんど完了している。
 地味はよいらしいのであるが、一つ困ることは、水が足りない点である。周囲は外輪山でかこまれているので、川はこの台地へは流れ込まない。結局外輪山でかこまれた区域内に降る雨だけが、水資源である。ところが厄介なことには、風は外輪山の上をいわば素通りするので、すぐ近くの山腹にはうんと雨の降るところがあるのに、この火口内には、あまり雨が降らない。それで水には非常に困っている。もう少し水が得られたら、パイナップルの収穫は、飛躍的に増すはずなのである。
 それでホノルルのパイナップル研究所には、地形による降雨量の変化を研究している気象学者がいる。大きい立木の下に、沢山の雨量計を置いて、雨量に差があるか否かを調べてみた。ところが驚いたことには、立木の下では、いつでも数倍、時には十倍以上の雨量があったそうである。すぐ近くの、木の影響のない所に置いた雨量計と比較しての話である。
 理由はきわめて簡単で、雨雲の粒、即ち霧が、木の葉にくっついて、雫となって落ちて来るからである。それでこの研究者は、網か糸かを使って、霧粒を捕えて、雫として採る方法を、いろいろ工夫していた。設備の費用と、耐久力と、霧の捕捉量と、その水による増収量とを計算すれば、経済的に成り立つか否かが決定されるわけである。
 ところが面白いことには、北大の低温研究所でも、数年前に、たしか三年か続けて、北海道東部の海霧の研究をしたことがある。結果は時の所長堀教授の手で、英文の「霧の研究」という大部な報告として発表されている。
 これは霧粒を防霧林で捕えて、内陸にはいるのを防ぐのが目的であった。霧粒を立木で捕える点では、ハワイの研究と全く同じことで、研究方法も非常に似ている。霧が欲しい場合と、霧を防ぎたい場合と、全く反対の場合に、同じ研究が役立つところが一寸面白い。



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