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知られざるアメリカ
しられざるアメリカ
作品ID59782
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆選集第三巻」 朝日新聞社
1966(昭和41)年10月20日
初出「心」平凡社、1955(昭和30)年3月
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2021-10-20 / 2021-09-27
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

アメリカの中堅階級

 一九五二年の夏、家族をつれてアメリカへ渡り、二年あまり、シカゴの郊外に住んでみた。アメリカは、それまでに、二回訪ねたことがある。しかし家庭をもった普通のアメリカ人の生活というものを経験したのは、これが初めてである。
 外国の姿は、その土地に一応住みついて、いわゆる家庭づき合いをしてみないと、なかなかわからない。二年くらいの経験では、もちろん足りないが、それでも、以前の二回の旅行ではわからなかった、いろいろなアメリカの姿に接することが出来た。表題の『知られざるアメリカ』というのは、少し大袈裟であるが、ごく少数のアメリカ生活体験者をのぞき、一般には、アメリカの中流階級の生活が、ほとんど知られていないように思われる。私なども、今度の経験で、初めてアメリカというものが、少しわかったような気がしている。
 そういう意味で、「聖林映画の世界」、「ギャングの街」、「近代生産設備の権化」などという言葉で、代表される以外のアメリカの話を、少し書いてみることにする。
 もちろんあの厖大で複雑なアメリカの社会機構の各断面について、そういう話をすることは、恐らく誰にも出来ないであろう。それで本文では、自分の狭い見聞の範囲内で、しかも中流階級の家庭と生活、という問題だけに限ることにする。
 もっとも中流階級といっても、幅は広いので、その上の方は、日本にしたら、大金持の部類にはいるかもしれない。五百坪くらいの庭がついた家に住み、主人はキャデラックをもち、細君も別の車をもっている、というのが、この階級の標準である。そういう仲間は、いわゆる高級住宅区域に住んでいる。私が今回の滞在中一番感じたことは、その連中の生活が、案外に健全だという点であった。
 中流階級の下の方は、学校を出てまだ間もないサラリーマンとか、小学校の先生とかいう人たちである。一戸建の家は持てないので、アパートに住み、自動車は一台というのが常識である。この階級の人たちについては、実によく働くということが、日本へもしばしば紹介されている。そのとおりであるが、その他に、今一つ注目すべきことがある。それは多分に計画的な生活態度を持っている、という点である。
 長期にわたって、生活に計画性をもたすことが出来れば、それが自然と富の蓄積にもなるし、また希望も持てる。羨ましい話であるが、一番の原因は、国情が安定しているという点にあるらしいので、今の日本では、その真似をすることは、なかなかむつかしい。いずれにしても、この計画的な生活態度というものが、この階級の人たちの生活を健全にしているようである。
 例外はもちろんあるが、一般的に見て、アメリカの中流階級は、上下を通じて、案外に健全な生活をしている。少し誇張していえば、今日のアメリカを背負っているのは、こういう中堅階級の人たちである。そしてアメリカの強味は、この中堅…

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