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西洋の浜焼
せいようのはまやき
作品ID59785
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆選集第三巻」 朝日新聞社
1966(昭和41)年10月20日
初出本文「あまカラ 第五十二号」甘辛社、1955(昭和30)年12月5日<br>付記「あまカラ 第五十八号」甘辛社、1956(昭和31)年6月5日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2022-04-25 / 2022-03-27
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

アルゼンチンの浜焼

 アルゼンチンから来ている氷河学者から、南米インディアンの料理の話を聞いた。クラントウというのだそうで、原理からいえば、鯛の浜焼のようなものであって、別に珍しい話ではないかもしれないが、ただ規模の大きいところが、ちょっと変っている。これは野外で、大勢の仲間があつまって食事をする場合に限られている。アルゼンチンの草原の広々としたところが舞台である。
 まず地面に大きい穴を掘って、その中に石塊をたくさん放り込む。そして丸太をその上に積んで、盛大な焚火をする。丸太がだいたい燃え終る頃は、石塊も土も赤熱に近いくらい熱くなっている。おきはそのままにして、燃え残りの丸太だけを取りのけて、この、いわば炉になっている穴の中にいろいろな材料を放り込むのである。
 最初は肉であるが、これが甚だ規模雄大な話で、ふつう羊か、子牛かを一頭丸ごと入れるのだそうである。牛を一頭放り込んだという話は、この頃はあまりないが、昔はやったという話である。羊でも子牛でも、文字通り[#「文字通り」は底本では「文子通り」]丸ごとであって、頭も皮もそのまま、毛までついたままで放り込む。もっとも腸だけは出しておく。
 それから何とかいう木の大きい葉をたくさん用意しておいて、それを何重にも羊の上にかぶせる。そしてその上にいろいろな野菜類をならべて、また、葉でおおう。何でもこの葉は非常にたくさん使うので、何重にも重ねて、蒸気の洩れる隙間がないようにするのだそうである。そしてまたその上に、今度は、蝦だの、貝だの、魚だのを一杯にならべて同じように葉をかぶせる。その上にさらに、一番早く蒸せる野菜類をならべて、また葉でおおう。
 こういうふうに盛り上げていくうちに、穴はいっぱいになり、さらにどんどん上に積み上がって、小さいドームのような形になる。最後には、葉を二寸くらいも重ねて、ぴったりとおおってしまう。少しでも蒸気の洩れるところがあると、そこへ葉をかぶせて止めるわけである。
 こうしておいて、お客たちは、その周囲にたむろしながら酒を飲んで待っている。だいぶ経って、もうよかろうという頃になると、既に酒は相当まわっている。やがて上機嫌のお客たちの前で、おおいの葉がとりのけられて、山海の珍味がくりひろげられるという寸法である。
 茫々たるアルゼンチンの草原の中で、丸蒸しの羊の肉を切り取りながら、大盃をあげてさらに飲む、というのは、大いに景気のよい話である。少し野蛮ではあるが、原始的な健康性もある。もっともこれは私の空想であって、実はまだこの料理は食べたことがない。話をきいただけである。それで味のことはぜんぜん書く資格がないわけで、雰囲気を想像して、羨ましがっているだけである。しかしこの話をしてくれた氷河学者は「ああいうおいしい料理は、他には決してない。一度ぜひアルゼンチンへ遊びに来ないか。このクラン…

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