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空飛ぶ円盤
そらとぶえんばん
作品ID59786
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆選集第三巻」 朝日新聞社
1966(昭和41)年10月20日
初出「西日本新聞」1955(昭和30)年8月
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2021-11-30 / 2021-10-27
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 空飛ぶ円盤が初めて報告されたのは、一九四七年六月二十四日のことで、もう八年も前のことである。
 この日、アイダホ州のアーノルドという実業家が、自家用飛行機で、ワシントン州から帰って来た。その途中レニア山の方向に、九つの光った円盤が空中に乱舞しているのを目撃した。それいらいこの空飛ぶ円盤は「二十世紀の七不思議」の第一位を占め、人気を独占してきた形である。
 初め数年の間に、方々で同じようなものを見たという人が出て来て、その資料だけでも数千と集まった。そのうちこれは外国にも伝播して、日本でも二、三度そういう記事が新聞に出た。
 アメリカ国防省でも、あまり騒ぎが大きくなったので、放ってはおけなくなった。それでレーダーでこの円盤をとらえようとか、ジェット機をすぐ飛び立てるように用意して、円盤が見えたという報告がありしだい、すぐ追跡させる手配をした。
 そういう騒ぎまで起したが、結局この空飛ぶ円盤は、つかまらなかった。そして八年も経った今日では、さすがに噂も七十五日で、皆が忘れてしまった形である。
 ところが、最近ゼサップという先生が妙な本を出版した。『正体不明の飛行物体』とでも直訳される題名の本である。空飛ぶ円盤は、その中では、ほんの一部を占めるだけで、ほかにも昔から「空」に関するいろいろな不思議が、たくさん伝えられている。それらを集めて、空間に一つの世界を想定しようというのであるから、初めは単なる科学マニアの創作かと思った。
 しかし、ゼサップ氏はミシガン大学の天文学の講師で、天体物理学に関する博士論文を完成したところだという。素人の空想小説ではなく、本人は大真面目に書いているのである。
 読んでみると、なるほど不思議なことがずいぶんあるものである。何トンという大きい氷の塊が空から落ちて来たり、鰻が何万匹と降って来たり、飛行機が雲に入ったきり出てこなかったり、雪の上に「悪魔の足跡」があったり、いろいろなことがいままでにあった。これ等について、一々記録を調べて書いてあるので、面白いことは非常に面白い。
 結局南太平洋にあったミュウ大陸が、爆発して空間にとび上がり、太陽系の内部に未知の惑星をつくっている。そこに住んでいる宇宙人の為す仕業であろう、というふうに考えている。ここまで来れば、もちろんマニアであるが、現代の世界には、こういうマニアを生む条件がそなわっているという意味で、非常に面白い本である。
 ミュウ大陸は、南太平洋に現在散在している島々の母体であった大陸で、太古に海中に没したという伝説がある。それを今度は、爆発で空間にとんだということにしたわけである。



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