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日本の将来
にほんのしょうらい
作品ID59793
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆選集第三巻」 朝日新聞社
1966(昭和41)年10月20日
初出「民族の自立」一時間文庫、新潮社、1953(昭和28)年12月20日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2022-12-12 / 2022-11-26
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 しばらく日本をはなれていると、いろいろなことを考えるが、結局のところやはり一番気になるのは、日本の将来という問題である。
 何も憂国の感情云々というような、大袈裟な話ではないが、誰でも外国にいると、少しは身仕舞などに心を配るようになる。何か不体裁なことがあったときに、日本ならば、「誰々がどういうことをした」という話ですむが、外国にいると、「日本人がこういうことをした」ということになる。それで知らず知らずのうちに、日本人という意識を、心の底にいつでも持っていることになる。
 それに今一つ、心を惹かれる問題がある。それは外国に永住している日本人、とくにいわゆる一世の老人たちの、日本に対する愛情である。アメリカや南米の場合が、とくに著しいのであろうが、四、五十年も異国の土地に住みついて、一生困難な事情のもとに、激しい労働をつづけ、やっと暮しが立つようになって、一息ついたという人たちが沢山ある。そういう老人たちの、一生の望みは、一度日本へ帰ってみたいということである。
 いつか、日本の雑誌に、誰かが書いて居られた話を思い出す。そういう人たちの中には、何十年ぶりかで日本を訪れることになり、横浜に着いた時には、そっと地面に坐って、日本の土に口をつけてみる人もあるそうである。故国への思慕というもの、また民族の血のつながりというものは、それほど根強いものなのである。外国にしばらく住んでみた経験のある人ならば、誰でも、こういう気持を理解することが出来るであろう。それでこの頃は私なども、柄にもなく、日本の将来のことなどを考えてみる場合が時々あるわけである。
 そういう気持に拍車をかけるものは、この頃日本から来る手紙や新聞などである。新聞の紙面は、相もかわらず、陰惨な記事か、うつろな話ばかりである。親しい人たちからの手紙にも、言葉の末々に、日本の前途に対する暗い見透しがちらついていることが多い。要するに今の日本では、「どうしたらよいのか」誰にもわからないように見える。国民全体が、五里霧中の姿で、ただ無暗と忙しくかけ廻っているという恰好といっていいかもしれない。
 本当は一般の国民は、国の前途などという大それたことを考えず日々平穏に自分のつとめを果しておればよいわけである。そして信用して選挙した人たちに、国政のことや、国の前途のことはまかせて、自分は自分だけで、つつましやかに生きて行けば、よいはずである。しかし今の日本では、どう贔屓目にみても、肝腎な為政者たちからして、一番肝腎なこと、即ち「どうしたらよいのか」がわからないように見える。少なくも、それがわからないような行動が多いようである。
 この「今の日本はどうしたらよいのか」というのは、民族に課された一番大きい問題であって、それがわからなくては、どうにもしようがないわけである。この問題を、「日本はアメリカにつくべきか、ソ連の勢…

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