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七羽のカラス
しちわのカラス |
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作品ID | 59839 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリム童話集(1)」 偕成社文庫、偕成社 1980(昭和55)年6月 |
入力者 | sogo |
校正者 | チエコ |
公開 / 更新 | 2021-02-24 / 2021-01-27 |
長さの目安 | 約 7 ページ(500字/頁で計算) |
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むかし、ある男に七人のむすこがありました。けれども、むすめはひとりもありませんでした。それだけに、この男はむすめをたいそうほしがっていました。
そのうちに、おかみさんのおなかが大きくなって、子どもが生まれそうになりました。やがて生まれた子どもは、待ちにまっていた女の子でした。
この男はどんなによろこんだかしれません。けれども、子どもは小さくて、やせこけていました。そして、からだがよわいため、すぐにかりの洗礼をうけさせなければなりませんでした。
おとうさんは、男の子のひとりをおおいそぎで泉にやって、洗礼の水をもってこさせようとしました。すると、ほかの子どもたちも、いっしょにかけていきました。そして、みんなが競争で水をくもうとしたものですから、つぼが手からすべって、泉のなかにおちてしまいました。
みんなはぼんやりつっ立ったまま、どうしていいかわかりません。そして、だれひとりうちにかえろうとはしませんでした。
おとうさんは、いつまでたってもだれもかえってこないので、いらいらして、いいました。
「きっと、またあそびにむちゅうになって、用事をわすれちまったんだな。しょうのないやつらめ。」
そのうちに、ぐずぐずしていると、女の子が洗礼もうけないうちに、死んでしまいはしないかと、心配になってきました。それで、ぷんぷん腹をたてて、
「小僧ども、みんな、カラスになっちまえ。」
と、どなりました。
ところが、こういいおわるかおわらないうちに、頭の上でバタ、バタいう、羽の音がきこえてきました。空をながめますと、炭のようにまっ黒なカラスが、高くまいあがって、とびさっていきます。
おとうさんとおかあさんは、さっきののろいのことばを、もうとりけすことはできません。ふたりは、七人のむすこをなくしたことを、たいそうかなしみました。でも、かわいらしい女の子がさずかりましたので、それでいくらかはなぐさめられました。
女の子は、まもなく力もついて、一日ごとに美しくなりました。
女の子は、じぶんににいさんたちのあったことを、長いあいだ知りませんでした。というのは、おとうさんもおかあさんも、この子のまえで、にいさんたちのことを話さないように気をつけていたからです。
でも、とうとうある日、みんながこの子のうわさをして、
「あの子は美しいけれども、七人のにいさんたちがあんなにひどいめにあったのは、もとはといえば、あの子のせいなんだからなあ。」
と、いっているのを耳にしました。
女の子は、すっかりかなしくなってしまいました。そして、おとうさんとおかあさんのところへいって、
「あたしには、にいさんたちがあったんですか。そして、そのにいさんたちはどこへいってしまったんですか。」
と、たずねました。おとうさんとおかあさんも、もうこれいじょう、この秘密をかくしておくわけにはいきません。そ…