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天国へいった仕立屋さん
てんごくへいったしたてやさん |
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作品ID | 59841 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリム童話集(1)」 偕成社文庫、偕成社 1980(昭和55)年6月 |
入力者 | sogo |
校正者 | チエコ |
公開 / 更新 | 2022-12-16 / 2022-11-26 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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ある晴れわたった日のことでした。神さまは天国のお庭を散歩なさろうとお思いになって、使徒や聖者たちをみんなおつれになりました。そのため、天国には聖ペテロさまがひとりしかのこっていませんでした。
神さまは、ごじぶんのるすのあいだは、だれもいれてはいけない、と、聖ペテロさまにおいいつけになりました。それで、聖ペテロさまは門のところに立って、番をしておりました。
すると、まもなく、だれかが門をトントンとたたきました。ペテロさまは、
「だれかね。なんの用事だね。」
と、たずねました。
「わたくしは、まずしい正直な仕立屋でございます。どうかおいれくださいまし。」
という、やさしい声がしました。
「なるほど、正直か。」
と、ペテロさまはいいました。
「首つり台にのぼったどろぼうのようにな。おまえは指を長くして、ひとの布地をはさみとったではないか。おまえは、天国にはいれはしない。神さまがそとにでかけていらっしゃるあいだは、だれもなかにいれてはいけないとお申しつけをうけているのだ。」
「どうかおなさけをおかけくださいまし。」
と、仕立屋さんが大きな声でもうしました。
「ひとりでに仕立台からおちるくずのつぎきれなぞは、ぬすむというほどのものではございません。ごらんくださいまし、わたくしは足がわるいのです。それに歩いてまいりましたので、足にまめができてしまって、もうひきかえすことができません。どうかなかにいれてくださいまし。どんなひどいしごとでもいたします。お子さんがたをだっこもいたしますし、おむつのせんたくもいたします。お子さんがたのあそんだこしかけをきれいにして、ぞうきんがけもいたしますし、お子さんがたのやぶけた着物のつくろいもいたします。」
聖ペテロさまはかわいそうになって、仕立屋さんのために、門をほんのすこしあけてやりました。仕立屋さんは、そのすきまから、やせほそったからだをすべりこませました。
仕立屋さんは門のうしろのすみっこにこしをおろして、そこでだまってじっとしているようにいいつかりました。だって、神さまがおかえりになったとき、仕立屋さんを見つけて、おいかりになるとこまりますからね。
仕立屋さんはそのとおりにいたします、といいましたが、聖ペテロさまがちょっと門のそとへでているあいだに、立ちあがりました。そして、ものめずらしさから、天国のすみずみを歩きまわって、あちこちを見物しました。
いちばんおしまいにやってきたところには、美しいりっぱないすがたくさんあって、そのまんなかには、ぴかぴかかがやく宝石をちりばめた、金の安楽いすがおいてありました。この安楽いすは、ほかのいすよりもずっとたけが高くて、そのまえには金の足台がおいてありました。
これは、神さまがうちにいらっしゃるとき、いつもおかけになるいすだったのです。そしてここから、神さまは地上におこるすべて…