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なぞ
なぞ |
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作品ID | 59842 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリム童話集(1)」 偕成社文庫、偕成社 1980(昭和55)年6月 |
入力者 | sogo |
校正者 | チエコ |
公開 / 更新 | 2021-01-29 / 2020-12-27 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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むかし、あるところに、ひとりの王子がおりました。王子は世のなかを歩きまわってみたくなりましたので、忠義な家来をひとりだけつれてでかけました。
ある日のこと、王子は、とある森のなかにはいりこみました。そのうちに、日がくれてきました。けれども、まだ宿屋が見つかりません。それで王子は、今夜はどこで夜をあかしたものだろうかと、とほうにくれてしまいました。
と、そのとき、ひとりのむすめが小さい家のほうへ歩いていくのが、目にとまりました。そこで、近よってみますと、それはわかいきれいなむすめでした。王子はむすめに声をかけて、いいました。
「むすめさん、今夜ひと晩、わたしと家来とをとめてもらえませんかね。」
「それはまあ、おとめすることはできますけど。」
と、むすめはかなしげな声でいいました。
「おすすめはいたしませんわ。おはいりにならないほうがようございます。」
「どうしていけないのですか。」
と、王子がたずねました。
むすめはため息をついて、こたえました。
「じつは、あたしのまま母はわるい術をつかいますし、それに、よそのかたにはしんせつにしないんですの。」
これをきいて、王子は魔女の家へきたことを知りました。けれども、もうまっくらで、これいじょうさきへいくことはできません。それに、べつにこわいとも思いませんでしたので、王子はなかへはいりました。
ばあさんは、炉ばたのひじかけいすにこしかけていましたが、赤い目で旅の人たちをじろっとながめました。そして、
「よくきたね、こしをおろして、ゆっくりやすむがいい。」
と、しゃがれ声でいいました。けれども、そのようすはいかにもしんせつそうでした。
ばあさんは、ぷうぷう炭をふいて、小さなふかいなべをかけ、なにかを煮はじめました。それを見ますと、むすめはふたりに気をつけるように注意して、
「まま母はわるい飲みものをつくっているんですから、どんなものでものんだり、食べたりしてはいけませんよ。」
と、もうしました。
ふたりは、あけがたまでぐっすりねむりました。
ふたりはでかけるしたくをすっかりととのえて、王子ははやくも馬にのりました。そのとき、ばあさんがいいました。
「ちょいとお待ち。でかけるまえに、おわかれの飲みものをあげたいからね。」
ばあさんがその飲みものをとりにいっているあいだに、王子はでかけてしまいました。家来のほうは、馬のくらをしっかりしめなければなりませんでしたので、ひとりだけあとにのこっていました。すると、そこへわるい魔女が飲みものをもって、やってきました。
「これを、おまえさんのご主人にもっていってあげておくれ。」
と、魔女はいいました。
ところがそのとたんに、コップがわれて、なかの毒が馬にはねかかりました。と、どうでしょう、それはものすごい毒だったものですから、たちまち、馬はその場にたおれて、死んで…